AI概要
【事案の概要】 被告人は、令和4年3月8日、自宅において、母方の祖父(当時79歳)、祖母(当時76歳)及び実兄(当時26歳)の3名に対し、ハンマーや金槌で頭部を多数回殴打するなどして殺害した殺人3件の事案である。被告人は幼少期から父や実兄による身体的・性的虐待を受け、祖父母がそれを教唆していたという背景があった。被告人は警察官を辞めた後、被虐待体験に起因するフラッシュバック等に苦しみ、犯行前日に家族会議を開いて過去の虐待について話し合おうとしたが、翌日、結束バンドで被害者らの手首を縛り、機動隊が来るという虚偽の説明をした上で、家族が2階にいる間に1階で祖父母を、その後実兄を順次殺害した。 【争点】 弁護人は、被告人が犯人であることを争うとともに、被告人は解離性同一性症に罹患しており、犯行時は別人格「ボウイ」が現れて主人格が行動を制御できなかったとして心神喪失又は心神耗弱を主張した。責任能力に関し、弁護人側の第1鑑定(E医師)は責任無能力との判断を示し、検察官側の第2鑑定(F医師)は完全責任能力があったとの判断を示した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、犯行現場の物的証拠(被告人のDNA型の血痕が付着した金槌等)や被告人自身が別人格「ボウイ」として犯行を認める供述をしていること等から、被告人が犯人であると認定した。責任能力については、解離性同一性症の患者であっても複数の別個の人間が内在するのではなく、一個の人間の別のパーソナリティ状態と捉えるべきであるとし、人格単位で責任能力を判断する方法は相当でないとした。その上で、犯行動機は過去の虐待への恨みや将来への絶望から了解可能であること、犯行当日も全体として一貫した行動がとれていたこと等から、解離により行動制御能力は低下していたものの著しいものではなく、完全責任能力を認めた。量刑については、3名の命を奪った結果の重大性と強固な殺意に基づく残虐な犯行態様を重視しつつも、幼少期の深刻な虐待被害が動機形成に影響していること、責任能力が相当程度減退していたこと、被告人が比較的若年で前科前歴がないこと等を考慮し、求刑の無期懲役に対して懲役30年を言い渡した。