AI概要
【事案の概要】 ベトナム国籍の被告人は、交際相手の女性Cから別れ話をされたことを契機に、Cを連れ戻す目的で三重県から埼玉県川口市内のアパートを訪れた。被告人はCの居室前で約4時間待ち続けたが、Cは被告人との面会を拒否して居室に引きこもった。その後、被告人は持参したダガーナイフ2本(いずれも刃渡り約15cm)を両手に抜き身で所持し、アパート5階で被害者の知人であるDらに対してナイフを突きつけながら「お前はAなのか」と被害者を探す言動をとった上、4階踊り場において被害者A(当時33歳)の前胸部をダガーナイフで突き刺し、心・肺損傷に基づく失血により死亡させた(殺人)。併せて、ダガーナイフ2本の不法所持(銃刀法違反)及び在留期間(令和4年5月31日まで)を約2年間超過した不法残留(入管法違反)でも起訴された。 【争点】 本件の争点は、(1)殺意の有無、(2)正当防衛の成否の2点であった。被告人は、「5階で知人らに刃物を向けたのは冗談であり、被害者とは認識していなかった」「4階で被害者から罵倒され、箱を投げつけられ、殴りかかられたため、反射的にポケットからナイフを取り出したところ刺さった」と正当防衛を主張した。これに対し、裁判所は、犯行直前に被害者の知人D・Eが被告人に抜き身のナイフで追い回された状況を具体的に証言し、互いの証言が合致して信用性が高いと認定した。さらに犯行を目撃したFの証言により、被告人が手に何も持っていない被害者に対し一方的にナイフで刺突する状況が認められた。加えて、被告人が事件直前にCに送った「あいつを肉にする」「病院で看護することになる」等のメッセージも被害者への加害意思を裏付けるものとされた。裁判所は、被告人の弁解を「不合理で到底信用できない」と排斥し、殺意を認定するとともに正当防衛の成立を否定した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、殺傷能力の高いダガーナイフで被害者の前胸部を深く一刺しして致命傷を与えた犯行態様は非常に危険であり、男女関係のもつれを背景に自己に不都合な人物の命を奪った短絡的かつ身勝手な犯行であると指摘した。被害結果は重大で、被害者の妻が厳重処罰を望んでいることにも言及し、被告人が不合理な弁解に終始して反省の情がほとんど見られないことも重視した。不法残留や刀剣類不法所持の併合罪も考慮し、前科がないことなどの有利な事情を踏まえた上で、求刑懲役18年に対し、被告人を懲役17年に処した(未決勾留日数150日算入、ダガーナイフ2本を没収)。