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【事案の概要】 被告人は、中等度のうつ病にり患していたところ、令和6年4月、香川県内の自宅において、実子である6歳の長女に対し、殺意をもって刃物で胸部を複数回突き刺し、全治7日間を要する右外傷性気胸、右肺挫傷等の傷害を負わせたが、殺害の目的を遂げなかったという殺人未遂の事案である。被告人は以前にも同じ被害者に対し刃物で背中を刺す傷害事件を起こし、医療観察法上の通院処遇を受けていた中での再犯であった。被告人は小学校入学を控えた被害者の養育等に悩みを募らせてうつ病の症状を悪化させ、衝動的に自殺を企図するとともに、一人娘を道連れにしようとした無理心中の事案と認定された。 【争点】 第一の争点は殺意の有無である。被告人は殺意を否認した。裁判所は、被害者の上衣に7か所の破れがあるにもかかわらず刺創は2か所にとどまり、刃体の長さに比して刺創が深くないことから、強固な殺意は認められないとした。しかし、6歳児の胸部に刃物を2cm余り突き刺して肺の表面付近に達する行為は死の危険がある行為であり、被告人は意識障害なくそれと分かって行為に及んでいることから、未必の殺意を認定した。第二の争点は責任能力である。鑑定医は、犯行時に重度に近い中等度のうつ病であり、その著しい影響により心中を企てたと証言した。一方、被告人は犯行前後に社会生活を営み、記憶も比較的鮮明で、殺害をためらうなど善悪判断力や行動制御力が完全に失われてはいなかったことから、心神耗弱と認定された。 【判旨(量刑)】 裁判所は、6歳児の胸に肺表面に達するほど刃物を突き刺した犯行態様は危険かつ悪質であり、うつ病の著しい影響があったとはいえ我が子を道連れにしようとした動機は身勝手であるとして、刑事責任の重大性を指摘した。検察官は、医療観察法上の処遇中に同じ被害者に再び同様の行為に及んだ他に類を見ない重大事案であるとして実刑を主張した。しかし裁判所は、心神耗弱者による子に対する心中目的の殺人未遂の量刑傾向では全て執行猶予が付されていること、前回は不起訴であり刑事手続の感銘力を経験していないことから、実刑の選択はためらわれるとした。他方、被告人の内省が不十分で家族も病状への理解が乏しいことから、再犯防止のため保護観察を付すことが不可欠とし、懲役3年・執行猶予5年・保護観察付きとした(求刑懲役5年)。