危険運転致死傷、道路交通法違反被告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、令和6年6月15日午前4時頃、酒気帯び状態で軽自動車を運転中、熊本市内の片側一車線道路で先行車両に追突する事故を起こした。飲酒運転等の発覚を免れるため、アクセルを目いっぱい踏んで自車線上を時速約70〜74kmで約350mにわたり後退逆走したところ、オーバーステアにより車両の制御を失い、歩道に逸走して歩行者2名に衝突し、1名(27歳)を脳挫傷で死亡させ、1名(27歳)に約2週間の傷害を負わせた。被告人はホストとして勤務しており、自動車通勤は禁止されていたにもかかわらず車で出勤し、飲酒後も代行運転を利用せず運転を開始していた。 【争点】 危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法2条2号)の「進行を制御することが困難な高速度」の要件が後退走行にも適用されるかが争われた。弁護人は、後退走行に伴う諸要素を判断要素に含めれば徐行を超える速度で常に制御困難となり、新たな危険運転類型の創設に等しく罪刑法定主義に反すると主張した。また、車両が制御困難に陥った主たる原因は速度ではなく後退走行という走行方法自体にあるとも主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、同号の「走行」には前進・後退の双方が含まれ、後退のみを除外する合理的理由はないとして、後退走行にも同号が適用されると判示した。FF車の後退走行時にはオーバーステアが生じやすく速度増加に応じてその影響が増大するとの自動車工学の知見を踏まえ、わずかなハンドル操作で歩道に逸走した原因は単に後退走行したことではなく速度が速すぎたことによる強力なオーバーステアであると認定し、時速約70〜74kmは「進行を制御することが困難な高速度」に当たるとした。量刑については、直線道路を高速度で約350mにわたり後退逆走した運転行為の危険性は高く、追突事故や飲酒運転の発覚を免れようとした意思決定は強い非難に値するとして、歩行者を被害者とする危険運転致死傷罪の中でも比較的重い部類に属するとした。前科がないこと等を考慮し、求刑どおり懲役12年を言い渡した。