AI概要
【事案の概要】 懲役受刑者として川越少年刑務所さいたま拘置支所に収容されていた亡c(当時21歳男性)が、令和2年1月に右陰嚢の腫大を訴えたところ、拘置支所の医師らは超音波検査等を実施せず、医学的根拠に乏しい陰嚢水の剥離細胞診のみで精巣腫瘍の鑑別を試みた結果、精巣腫瘍の発見・治療が約2か月遅れた。亡cは3月に右高位精巣摘除術及び化学療法を受けたが、10月に多発転移が判明し、令和3年7月24日に精巣腫瘍により死亡した。亡cの母である原告a及び婚約者であった原告bが、国に対し、国家賠償法1条1項に基づき合計約7699万円の損害賠償を求めた。 【争点】 主な争点は、①拘置支所の医師が1月7日又は9日に超音波検査等を実施すべき注意義務を怠った過失の有無、②刑務所の医師が術後の経過観察においてCT検査を適時に実施すべき注意義務を怠った過失の有無、③注意義務違反と亡cの死亡との因果関係、④損害額である。被告(国)は、拘置支所にはCT検査装置や適切な超音波検査装置がなかったこと等を主張し、因果関係についても、亡cの精巣腫瘍はシスプラチン耐性のSTM(体細胞型悪性腫瘍)であり、早期発見しても死亡を回避できなかったと反論した。 【判旨】 裁判所は、亡cの精巣腫瘍が1月時点で既にSTMであった可能性が否定できず、早期に治療を開始しても死亡を回避できたとはいえないとして、死亡との因果関係及び生存の相当程度の可能性のいずれも否定した。しかし、拘置支所のe医師が超音波検査等を実施せず陰嚢水の剥離細胞診のみで精巣腫瘍の鑑別を試みた行為は、偽陰性を招きやすく医学的根拠に乏しい方法であり、臨床医学の実践における医療水準との乖離が大きく、わずかな注意で回避可能であったとして、「著しく不適切な医療行為」に該当すると認定した。これにより亡cの「適切な医療行為を受ける利益」が侵害されたとして、慰謝料250万円を認め、原告aに対し相続分・弁護士費用を含む150万円の支払を命じた。原告bの請求は棄却された。