再審請求棄却決定に対する異議申立て棄却決定に対する特別抗告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 昭和36年、三重県名張市の公民館で開催された生活改善クラブの懇親会において、女子会員用のぶどう酒に有機燐テップ製剤(農薬ニッカリンT)が混入され、これを飲んだ17名のうち5名が死亡し12名が負傷した事件(名張毒ぶどう酒事件)について、死刑が確定した事件本人(平成27年死亡)の妹が申立人となり、第10次再審請求をした事案である。確定判決は、事件本人が妻と愛人との三角関係を清算するため犯行に及んだと認定し、①犯行の場所と機会に関する情況証拠(公民館内にただ一人でいた約10分間に農薬を混入できたのは事件本人のみ)、②ぶどう酒瓶の替栓の傷痕に関する鑑定、③捜査段階の自白を有罪認定の根拠とした。なお、②の替栓傷痕の鑑定は第5次再審請求で証明力が大幅に減殺されたため、本件再審請求の前提となる有罪認定の根拠は①と③である。 【争点】 本件再審請求で提出された新証拠が刑訴法435条6号の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たるか。新証拠は、①封緘紙裏面に製造時のCMC糊とは別のPVA糊が付着しているとする鑑定(澤渡鑑定)に基づき、公民館以外の場所で開栓・毒物混入後に封緘紙が貼り直された可能性を主張するもの、②ペーパークロマトグラフ試験の再現実験から、使用毒物がニッカリンTではなく自白の根幹に疑いが生じるとするもの、③替栓傷痕に関するもの、④自白の任意性・信用性に関するものに大別される。 【判旨】 最高裁第三小法廷は、本件抗告を棄却した。新証拠①について、ATR法は物質の付着成分が不特定かつ複数の場合に測定スペクトルから物質を特定することに限界があり、事件から長期間が経過した本件封緘紙にいかなる物質が付着しているか不明であることを前提とすべきであるから、ATR法による物質特定には困難があるとした。さらに、澤渡教授がPVA識別基準の根幹部分を変更し判断根拠を十分に示していないことから、同鑑定は科学的根拠を有する合理的なものとはいえないとした原決定を是認した。新証拠②について、事件検体と対照検体でTriEPPの検出結果が異なることはPETPの加水分解の進行度の差異で科学的に説明可能であるとし、自白の信用性に影響を及ぼさないとした。新証拠③は第5次再審請求で既に前提とされた事項であり、新証拠④を踏まえても自白の信用性に疑いは生じないとした。各新証拠を併せ考慮しても確定判決の有罪認定に合理的疑いを生じる余地はないとした。 【補足意見】 宇賀克也裁判官は反対意見を述べ、再審を開始すべきとした。澤渡鑑定のATR法は標準的手法であり裁判所立会いの下で実施された公正なものであること、本件封緘紙にPVA糊以外の物質が付着したとは現実的に考えられないことから、同鑑定には高い信用性が認められるとした。PVA糊の付着が認められれば犯行場所が公民館とは断定できなくなり、事件本人のみに犯行機会があったとの推認が成り立たなくなると指摘した。さらに、事件本人の自白には、ニッカリンT瓶が捜索で発見されなかったこと、囲炉裏の灰から燐が検出されなかったこと、犯行計画の現実性の乏しさなど多数の疑問点があり、ぶどう酒から石油臭がしたとの複数の供述もニッカリンT使用と整合しないことから、自白の信用性に多大な疑問が生じており、確定判決の有罪認定には合理的疑いがあるとして、再審開始を求めた。