仮処分命令申立て却下決定に対する抗告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、関西電力が設置・運用する美浜発電所3号機(運転開始から40年以上経過)について、同発電所から一定距離の範囲内に居住する住民らが、老朽化により地震に対する安全性を欠いている上、避難計画にも不備があるから、運転中に放射性物質を環境中に大量に放出する重大事故を起こし、住民らの人格権が侵害される具体的危険があると主張して、人格権に基づく妨害予防請求権としての運転差止請求権を被保全権利として、同発電所の運転を仮に差し止める仮処分命令の申立てをした事案である。原審(福井地裁)が本件申立てを却下したところ、住民らが即時抗告した。 【争点】 (1) 司法審査の在り方(判断の枠組み):原子力発電所の安全性に関する司法審査において、相手方が原子力規制委員会の審査基準に不合理な点がないこと等を主張・疎明した場合に、住民側が安全性に欠ける具体的危険の存在を主張・疎明すべきか。 (2) 高経年化(経年劣化)の問題:運転期間40年を超える本件発電所について、中性子照射脆化、金属疲労、腐食等の経年劣化により安全性が確保されていないか。 (3) 原子炉建屋の変位のおそれのない地盤への設置の有無:敷地内破砕帯が将来活動する可能性のある断層等に該当するか。 (4) 震源極近傍敷地の問題:本件特別考慮規定にいう「震源が敷地に極めて近い場合」に該当するか。 (5) 使用する経験式の適切性:地震規模の認定に用いる松田式等の経験式に問題があるか。 (6) 繰り返し地震の考慮の問題:若狭地方の活断層の連動による繰り返し地震を考慮すべきか。 (7) 避難計画の不備:避難経路の寸断可能性や安定ヨウ素剤の服用体制の不備等により、住民の生命・身体が侵害される具体的危険があるか。 【判旨】 大阪高裁は、抗告を棄却した。裁判所は、本件における司法審査の枠組みとして、相手方が審査基準の合理性及び原子力規制委員会の適合性判断の合理性を主張・疎明した場合には、住民側が発電所の安全性に欠ける具体的危険の存在を主張・疎明する必要があるとした。高経年化の問題については、新規制基準の下で特別点検及び劣化状況評価が実施され、原子炉容器、格納容器、コンクリート構造物等のいずれについても有意な欠陥や劣化は認められず、新規制基準が定める高経年化対策に不合理な点は見いだせないと判断した。震源極近傍の問題については、本件特別考慮規定の策定経緯を詳細に検討し、同規定は具体的な距離基準を定めたものではなく、具体的審査時における原子力規制委員会の個別具体的な判断に委ねられているとした上で、熊本地震の知見等に照らしても「震源が敷地に極めて近い場合」に当たらないとした相手方及び原子力規制委員会の判断に不合理な点はないとした。避難計画の不備については、本件は民事保全手続であり、住民側の申立てが認められるには発電所自体の安全性の欠如による具体的危険性が一応認められることを要するところ、その疎明がないから、避難計画の不備を検討するまでもないとした。以上から、本件発電所の運転により住民らの人格権が侵害される具体的危険があるとの疎明はできていないとして、原決定を維持した。