AI概要
【事案の概要】 被告人は、愛知県選挙管理委員会が令和2年8月25日にAらを解職請求代表者として告示した愛知県知事の解職請求(リコール)に関し、解職請求者の署名を偽造しようと考え、分離前相被告人B並びにC及びDらと共謀の上、令和2年10月23日から同月下旬頃にかけて、佐賀市内の施設において、Fらをして愛知県知事解職請求者署名簿の氏名欄に同県知事の選挙権を有する者の氏名合計71筆を記載させ、もって解職請求者の署名を偽造した。 被告人は、政治団体Lの会長Aの歓心を得て自身の政界進出への足場を作ろうと考え、同団体の事務局長として共犯者らを差配し、犯行に必要となる名簿業者からの名簿80万件分の購入、遠方の施設や人員・会場の手配、署名偽造の進捗状況の管理などを行い、首謀者として犯行を主導していた。なお、本件リコールの成立に必要な法定署名数は約86万7133人であった。 【争点】 弁護人は、(1)県選挙管理委員会が行った署名簿の調査依頼及び保管要請が違法であり、署名簿及びその派生証拠はいずれも違法収集証拠として排除されるべきである、(2)被告人にはリコールを成立させる意図はなく、政治家としての知名度や後援に対する訴求力を維持するために「惜敗」の状況を演出する目的であったと主張した。 争点(1)について、裁判所は、県選管による調査依頼は地方自治法245条の4第1項に基づく適法な行政調査であり、専ら犯罪捜査に供する目的で行われたものとは認められず、調査手法も実質的な検証又は鑑定処分に当たるような違法なものとはいえないと判断した。また、保管要請についても、請求代表者間で署名簿の返還につき意見が分かれている状況下で慎重な対応を求めたものであり、犯罪捜査に供することを唯一の目的としたものとは認められないとして、弁護人の違法収集証拠排除の主張を退けた。 争点(2)について、裁判所は、被告人が名簿業者から法定署名数に匹敵する数の名簿を購入し、共犯者に対して法定署名数を目指す旨の言動を繰り返していたこと、「ばれないから大丈夫」「筆跡鑑定とかしないから大丈夫」などと発言して署名偽造の発覚を想定していなかったことなどから、被告人はリコールを成立させる意図をもって犯行に及んだものと認定した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、本件が組織性・計画性の認められる悪質な犯行であり、住民自治の実現に不可欠な直接請求制度に対する社会の信頼を失墜させ、ひいては地方自治の運営そのものを揺るがしかねないものであると指摘した。被告人は首謀者として犯行を主導しただけでなく、その動機も自己の政界進出という利己的なものであり、厳しい非難に値するとした。他方、結果的に本件犯行が県知事の解職請求には結びつかなかったこと、見るべき前科がないことなどを考慮し、被告人を懲役2年・執行猶予4年に処した(検察官の求刑は懲役2年)。