勾留の裁判に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、勾留を請求された被疑者に対し、裁判官が被疑事件を告げる際に、刑事訴訟法207条の2第2項に基づき、個人特定事項(被害者の氏名等)を明らかにしない方法がとられたことについて、被疑者側が憲法34条に違反すると主張した事案である。刑訴法207条の2は、令和5年の刑事訴訟法改正により新設された規定であり、性犯罪等の被害者保護の観点から、勾留質問の際に被害者の氏名等の個人特定事項を被疑者に秘匿したまま手続を進めることを可能にしたものである。被疑者側は、この方法では被疑事件を特定して告げたことにならず、また、弁護人に依頼する権利を侵害するとして、勾留の裁判に対する準抗告を申し立てたが棄却されたため、最高裁判所に特別抗告を行った。 【争点】 刑訴法207条の2に基づき、個人特定事項を明らかにしない方法で被疑事件を告げることが、憲法34条が保障する「理由の告知」及び「弁護人に依頼する権利」を侵害するか否かが争われた。憲法34条は、何人も理由を直ちに告げられなければ抑留・拘禁されないこと、及び弁護人に依頼する権利を保障しており、勾留に際して被疑事件の内容を被疑者に告知することはこの憲法上の要請に基づくものである。本件では、個人特定事項の秘匿がこの告知の実質を損なうか否かが核心的な問題であった。 【判旨】 最高裁第三小法廷は、裁判官全員一致の意見で、特別抗告を棄却した。その理由として、第一に、刑訴法207条の2第2項の規定する個人特定事項を明らかにしない方法によったとしても、その余の事項(犯罪の日時、場所、態様等)から当該被疑事件を特定することができると判断した。すなわち、被害者の氏名等が秘匿されても、被疑事件の特定に支障はないとしたものである。第二に、同条は被疑者が弁護人に依頼する権利を行使することを妨げるものでもないと判断した。以上から、抗告の趣意は前提を欠き、刑訴法433条の抗告理由に当たらないとした。本決定は、令和5年改正で導入された個人特定事項秘匿制度について、最高裁として初めてその合憲性に言及したものであり、同制度の実務運用を支える重要な判断といえる。