国家賠償請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 旧優生保護法(昭和23年法律第156号)は、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを目的として、特定の疾病や障害を有する者等に対する不妊手術(優生手術)を定めていた。同法に基づき、昭和24年以降平成8年の法改正までの間に約2万5000人が不妊手術を受けたとされる。被上告人らは、自ら又は配偶者が同法の規定に基づいて不妊手術を受けた者であり、聴覚障害や脳性小児麻痺を理由に、母親の同意等をもって本人の同意があったものとして、あるいは都道府県優生保護審査会の決定に基づいて不妊手術を受けさせられた。厚生省は昭和28年に、審査を要件とする優生手術につき身体の拘束や麻酔薬施用、欺罔等の手段を用いることも許される旨の通知を発出するなど、国家の政策として優生手術を積極的に推進していた。被上告人らは、同法の規定は憲法13条・14条1項等に違反し、国会議員の立法行為は国家賠償法1条1項の適用上違法であるとして、国に対し損害賠償を求めた。国は、改正前民法724条後段の除斥期間(20年)の経過により損害賠償請求権は消滅したと主張した。 【争点】 旧優生保護法の不妊手術に関する規定の違憲性、及び改正前民法724条後段の除斥期間の経過により損害賠償請求権が消滅したか否か。特に、除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用に当たるか。 【判旨】 最高裁大法廷は、全員一致で上告を棄却した。まず、不妊手術は生殖能力の喪失という重大な結果をもたらす身体への侵襲であり、本件規定の立法目的は、特定の障害等を有する者が不良であるという評価を前提に不妊手術を受けさせるものであって、立法当時の社会状況を勘案しても正当とはいえないことが明らかであり、憲法13条に反すると判断した。本人の同意を要件とする規定についても、優生上の見地から重大な犠牲を払わせる規定により同意を求めること自体が個人の尊厳に反し、周囲からの圧力等により真意に反して同意せざるを得ない事態も容易に想定されるとして、実質的に不妊手術の強制に当たるとした。また、合理的根拠に基づかない差別的取扱いとして憲法14条1項にも違反するとした。 除斥期間については、平成元年判決が示した「除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用であるという主張は主張自体失当である」との法理を変更し、除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用となる場合もあり得ると判示した。本件では、国が明白に違憲な立法により約48年間にわたり国家政策として不妊手術を推進し約2万5000人に重大な被害を与えたこと、被害者の多くが権利行使に種々の制約のある立場にあったこと、国が法改正後も不妊手術は適法であるとの立場をとり続け補償を怠ってきたこと等の事情に照らし、除斥期間の経過により国が損害賠償責任を免れることは著しく正義・公平の理念に反し到底容認できないとして、国の除斥期間の主張は信義則に反し権利濫用として許されないと結論づけた。 【補足意見】 三浦守裁判官は、除斥期間の法的性質自体の変更(時効期間への変更)までは不要とした上で、国に対し速やかに適切な損害賠償の仕組みを整え全面的解決を図ることを期待すると付言した。草野耕一裁判官は、改正前民法724条の立法趣旨から分析し、国家賠償請求において除斥期間の経過を主張することに積極的意義を見出し得ず、むしろ違憲判断を歴史に刻印することが立憲国家としての善き国家の構想・実現に資すると述べた。宇賀克也裁判官は、多数意見の結論には賛成しつつも、改正前民法724条後段の期間は除斥期間ではなく消滅時効を定めたものと解すべきであるとの意見を述べた。