AI概要
【事案の概要】 被告人は、夫の母や妹の日頃の言動を自分に対する嫌がらせと捉えて不満を募らせ、夫の母や妹を傷付ける目的で、令和4年7月中旬頃から同年8月下旬頃までの間、香川県坂出市内の居宅において、数回にわたり、自らインターネットで調べて材料を調達し生成した劇物である酢酸鉛を、夫の妹の生後2か月余りの乳児(被害児)の粉ミルク缶に混入した。被告人は、事情を知らない被害児の母らに、酢酸鉛が混入された粉ミルクで調乳させ、被害児に多数回飲用させた。その結果、被害児は加療約2か月間を要する貧血を伴う鉛中毒の傷害を負った。被害児の血中鉛濃度は、小児の正常値が1デシリットル当たり5マイクログラム以下とされるところ、最大で1デシリットル当たり56.8マイクログラムに達し、犯行から約1年半後の令和6年1月時点でもなお21.1マイクログラムと測定された。被害児は、鉛中毒による脳や臓器への影響、知能指数の低下、発達障害等の症状が今後どのように現れるか確定しておらず、相当長期間にわたる経過観察が必要とされている。 【争点】 弁護人は、被告人が解離性同一性障害にり患しており、犯行時は心神耗弱の状態にあったと主張した。捜査段階の精神鑑定を担当したB医師は、被告人が解離性同一性障害にり患しており、犯行時に別のパーソナリティ状態が出現し、憤怒の感覚や解離性幻聴等の解離症状が認められたが、人格交代までは生じておらず、普段のパーソナリティ状態との記憶や感情の共有があったことから、解離症状の犯行への影響は限定的であると鑑定した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、B医師の鑑定の信用性を認めた上で、解離性同一性障害は重度の精神障害ではないこと、夫の母や妹への不満から妹の子に傷害を加えたという動機が了解可能であること、発覚しにくい態様で合目的的かつ合理的に犯行に及んでいること、犯行の記憶が相応に保たれていること、証拠隠滅行為にも及んでいることから、完全責任能力を認定した。量刑判断においては、異変を訴えられない乳児を標的とし、安全性が信頼される粉ミルクに劇物を混入して情を知らない母らの手で継続的に危害を加えさせた態様が極めて卑劣かつ危険であること、強い犯意に基づく執拗な犯行であること、損害賠償等の慰藉の措置を講じていないことを不利な事情とした。他方、解離性同一性障害の症状が犯行を促進させた点、反省の態度、前科がないこと等の有利な事情を考慮しても刑事責任は相当に重いとして、求刑懲役4年に対し、懲役3年の実刑を言い渡した。