AI概要
【事案の概要】 埼玉県警察の川口警察署に勾留されていた原告が、同署で提供された食事にビタミンB1が不足していたため脚気に罹患し、精神的苦痛を被ったとして、被告(埼玉県)に対し、国家賠償法1条1項に基づき1000万円の損害賠償を求めた事案である。原告は平成29年11月に逮捕・勾留され、平成30年3月に食事の製造業務の委託先が訴外会社に変更された後、同年5月頃から手足のしびれや筋力低下等の症状が現れた。同年8月に埼玉医科大学総合医療センターに入院し、急激な全身状態の悪化がみられたが、ビタミンB1の補充により速やかに改善し、脚気心・ビタミンB1欠乏症と診断された。令和元年には同署の他の被留置者4名もビタミンB1欠乏症と診断され、県警本部が公表するに至った。 【争点】 被告に、被留置者に対しビタミンB1が不足しない食事を提供すべき義務違反があったか。被告は、ビタミンB1の摂取量を定めた法令の規定がないこと、委託業者との契約で品質を確保していたこと、留置施設は長期収容を予定しておらず脚気の発症は予見不可能であったこと等を主張して争った。 【判旨】 裁判所は、被告の義務違反を認め、55万円(慰謝料50万円、弁護士費用5万円)の限度で請求を認容した。その理由として、①刑事収容施設法186条・189条は被留置者に支給する食事が健康保持に足りるものであることを求めており、ビタミンB1の摂取量を定めた規定がなくとも配慮義務を免れないこと、②脚気がビタミンB1欠乏による病気であることは広く一般に知られていること、③被告は平成30年6月のカロリー検査の際に栄養士会からビタミンB1の含有量を含む検査結果の通知を受けており、これを検討すれば本件食事にビタミンB1が不足していることを容易に認識できたこと、④留置施設が長期収容を予定していないとの主張についても、現に原告は約10か月間勾留されており、100日以上の被収容者も存在したことを指摘した。もっとも、ビタミンB1補充後に全身状態が速やかに改善し重篤な状態はごく短期間で終了したこと等を考慮し、慰謝料は50万円が相当と判断した。