高齢者虐待防止法に基づく保護処分取消請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 原告(高齢の母Aの長男)が、被告(特別区)に対し、被告がAについて養護者である原告による高齢者虐待を理由に緊急一時保護を実施し、①Aの退院措置、②施設への移送・入所措置、③原告との面会制限措置、④後見開始審判等の申立てをしたことが違法であると主張して、国家賠償法1条1項に基づき330万円(慰謝料300万円、弁護士費用30万円)の損害賠償を求めた事案である。Aは要介護5の認知症高齢者であり、原告と同居して生活していたところ、介護事業者や訪問診療機関から原告による身体的・心理的虐待の通報が複数回なされていた。Aが病院退院直後に原告の不適切な入浴介助により重度の熱傷(3度熱傷)を負う事故が発生し、転院先の病院でも原告が禁止された持込み食をAに食べさせたり、無理やり食事をさせて嘔吐させたり、大声でどなるなどの問題行動が繰り返し報告されたため、被告は緊急一時保護の実施を決定した。 【争点】 被告が緊急一時保護を実施し、本件各措置等をしたことが国賠法1条1項の適用上違法であるか。具体的には、①緊急一時保護及び各措置の法的根拠の有無、②虐待の事実及び緊急性の有無、③事実確認義務の懈怠の有無、④Aの承諾の有無、⑤各措置(退院措置、移送・入所措置、面会制限措置、後見等申立て)の個別の違法性が争われた。 【判旨】 請求棄却。裁判所は、本件要綱に基づく緊急一時保護は直接の法令上の根拠を有しない事実上の措置であり強制力の行使は許されないが、高齢者虐待防止法の目的・趣旨に沿う要綱に基づく限り適法に実施できると判示した。違法性の判断枠組みとして、緊急一時保護の実施及び付随措置に係る判断が社会通念上著しく不合理であり裁量権の範囲を逸脱・濫用した場合に限り違法と評価すべきとした。その上で、福祉課が複数の虐待通報を受けて介護事業者等からの事情聴取やコアメンバー会議を5回開催するなど慎重に検討を重ねた経過に照らし、身体的・心理的虐待の認定及び緊急性の判断は不合理でなかったとした。事実確認について、原告への直接の事情聴取をしなかった点も、原告の行動予測が困難でAの安全への懸念があったことから裁量の範囲内とした。Aの承諾については、職員の説明に対しAが「安全なところがいいわ」と応じたことから承諾があったと評価し、仮に意思能力を欠いていたとしても明示的な拒絶がない限り違法とはならないとした。面会制限措置は施設管理権に基づく要請にとどまるものであり、連れ戻しの危険等に照らしその実施は許容されるとした。