不当利得返還請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 大阪市(上告人)が、市議会議員選挙に当選した被上告人に対し、不当利得の返還を求めた事案である。被上告人は平成31年4月の大阪市議会議員選挙に当選したが、同選挙に関する公職選挙法221条3項1号・同条1項1号の罪(公職の候補者による買収)により懲役1年・執行猶予5年の有罪判決を受け、令和2年2月13日に同判決が確定した。これにより被上告人の当選は公職選挙法251条の規定により無効となり、被上告人は遡って市議会議員の職を失った。大阪市は、既に支給した議員報酬等約1001万円及び政務活動費約410万円の返還を求めた。被上告人は、市議会議員として活動したことにより大阪市が利益を受けたとして、同額の不当利得返還請求権を自働債権とする相殺の抗弁を主張した。原審は相殺の抗弁を一部認めたが、大阪市が上告受理を申し立てた。 【争点】 公職選挙法251条により遡って市議会議員の職を失った当選人が、在職中に市議会議員として行った活動や政務活動について、地方公共団体に対する不当利得返還請求権を有するか。 【判旨】 最高裁は原判決を変更し、大阪市の請求を全部認容した。政務活動費について、条例に基づく政務活動費は議員の調査研究等の活動に資するための経費の助成として交付されるものであり、政務活動の対価として交付されるものではないから、遡って市議会議員の職を失った当選人を唯一の所属議員とする会派が政務活動を行っていたとしても、大阪市が利益を受けたとは評価できないとした。議員報酬等について、公職選挙法251条所定の罪を犯して刑に処せられた当選人は、自ら民主主義の根幹を成す公職選挙の公明・適正を著しく害したものであり、同条が当選の遡及的無効を規定した趣旨に照らせば、当該当選人の市議会議員としての活動は大阪市との関係で価値を有しないものと評価せざるを得ず、不当利得返還請求権を有することはないとした。 【補足意見・反対意見】 林道晴裁判官の補足意見は、多数意見に賛同しつつ、遡って失職した当選人に一定の利益の保持を認めるのが相当な場合もあり得るが、そのためには議会における審議・議決など根拠付ける措置が必要であるとし、本判決を機に各地方公共団体で議論が尽くされることを期待するとした。今崎幸彦裁判官の反対意見は、議員報酬等について原判断を是認すべきとし、被上告人が外形上市議会議員として活動した事実は残り、大阪市は法律上の原因を欠いた労務提供により利益を受けたのであるから、不当利得返還請求権の存在は否定できないとした。もっとも、裁判所が議員活動の客観的価値を評価することは困難であるため、保持すべき利益は正規の議員報酬等の額と同額とみなさざるを得ないとした。