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【事案の概要】 ベトナム国籍の技能実習生である被告人は、令和2年11月15日頃、熊本県内の自宅で双子のえい児を出産したが、いずれも出産直後に死亡した。被告人は、妊娠すると帰国させられるとの噂を信じて妊娠・出産を周囲に隠しており、えい児の死体をタオルで包んで段ボール箱に入れ、さらに別の段ボール箱に二重に入れて合計十数片の接着テープで封をし、自室の棚の上に置いた。翌日、監理団体職員に連れられて受診した病院で出産の事実を告げたことから発覚し、死体遺棄罪で起訴された。原審(第一審)は懲役8月・執行猶予3年としたが、被告人側が控訴した。 【争点】 本件の中心的争点は、被告人がえい児の死体を段ボール箱に入れて自室に置いた行為が刑法190条の「遺棄」に当たるか否かである。弁護人は、(1)被告人は産婦人科でも行われる方法でえい児を箱に入れたにすぎず、回復後にベトナム式の土葬で埋葬する意思があった、(2)段ボール箱を押入れ等に隠さず自室の棚の上に置いており隠匿行為ではない、(3)出産時の血痕を拭き取っていないことは隠す意思がなかった証拠である、(4)葬祭義務の不履行を問うには期待可能性がない、と主張した。特に、作為による遺棄(死体を隠匿する態様での梱包・放置)と不作為による遺棄(葬祭義務の不履行)の両面から「遺棄」概念の射程が問題となった。 【判旨】 福岡高裁は、原判決を破棄し自判した。まず作為による遺棄について、死体を二重の段ボール箱に入れて十数片の接着テープで封をした行為は、葬祭の準備として必要な行為ではなく、他者が死体を発見することを困難にする隠匿行為であると認定した。被告人がえい児に名前を付け手紙を入れるなど愛情を示していたとしても、隠匿の意思と両立するものであり、「遺棄」該当性を左右しないとした。一方、不作為による遺棄については、葬祭義務者が葬祭を行わない不作為が「遺棄」に該当するのは、死体の存在を認識してから葬祭義務を履行すべき「相当の期間」内に葬祭を行わなかった場合に限られるとの解釈を示した上で、被告人が死体の存在を認識してから病院で事実を告げるまでの期間は約1日9時間にとどまり、通常の葬祭でもその程度の期間を要し得ることから、不作為による遺棄には当たらないと判断した。この不作為部分の法令適用の誤りを理由に原判決を破棄し、作為による遺棄のみを認定して懲役3月・執行猶予2年とした。技能実習生が妊娠を隠さざるを得なかった背景事情を量刑上一定程度酌むべきとした点も注目される。