AI概要
【事案の概要】 愛知県知事の解職請求(リコール)に関し、解職請求者の署名を大規模に偽造した地方自治法違反の事案である。被告人は、リコール運動を行う団体の事務局長である父親Cらと共謀の上、令和2年10月、佐賀県内の会館において、アルバイト作業員らに愛知県知事の選挙権を有する者の氏名を署名簿に書き写させ、合計70名以上の署名を偽造した。被告人は、Cの指示のもと、署名偽造に用いる80万人分の名簿を偽名で購入し(代金約533万円)、署名簿用紙と名簿を愛知県から佐賀県まで運搬し、偽造された署名簿を回収して指印を押すなど、犯行のほぼ全体に関与した。 【争点】 弁護人は、①名簿入手時点では署名偽造に用いられるとの認識がなく、父であるCから場当たり的な指示を受けて限定的に関与したにすぎない、②他の関係者と比較しても被告人の関与の程度は小さい、③報酬は親子関係を前提とした駄賃にすぎず正犯性を基礎付けないとして、共同正犯ではなく幇助犯が成立するにとどまると主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、被告人の名簿購入目的に関する公判供述は信用できないと判断した。名簿購入時に愛知県から離れた業者を選び偽名を用いるなどした点は、戸別訪問目的では説明がつかず、捜査段階の供述(署名偽造目的を認識していた旨)が信用できるとした。その上で、被告人は署名偽造の目的を認識した上で、名簿入手から指印押捺まで犯行のほぼ全体に関与し、Cと密接に連絡を取りながら実行役への指示伝達等の重要な役割を果たし、40万円以上の報酬も得ていることから、自己の犯罪を犯したといえる程度に重要な役割を積極的に果たしたとして共同正犯の成立を認めた。量刑については、ありもしない民意を捏造して直接公選の県知事の解職をもくろむ犯行は地方自治を不正に歪めるものであり、解職請求制度の公正さに対する信頼を失墜させかねない点で社会的影響が大きいとした。他方、被告人が主犯格のCと比べると従属的な関わりにとどまること、事実を概ね認めて反省していること、前科がないことを考慮しても罰金刑の選択は許されないとし、求刑どおり懲役1年6月・執行猶予3年を言い渡した。