元首相安倍晋三国葬差止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 安倍晋三元内閣総理大臣が令和4年7月8日に銃撃を受けて死亡したことを受け、内閣が同月22日に同人の国葬儀を同年9月27日に行うことを閣議決定した。これに対し、原告らが、本件国葬儀の実施及びこれに伴う国費の支出について、行政事件訴訟法3条7項に基づく差止めの訴えを提起した事案である。原告らは、納税者かつ主権者である国民として固有の人格権が認められるところ、国葬儀の実施及び予備費からの費用支出は公権力をもって弔意を強制するものであり、当該人格権を直接侵害すると主張した。 【争点】 本件の主要な争点は、国葬儀の実施及びこれに伴う国費の支出に関する閣議決定が、抗告訴訟の対象となる「処分」に該当するか否か(処分性の有無)である。具体的には、(1)閣議決定が国民の権利義務を直接形成し又はその範囲を確定するものといえるか、(2)原告らが主張する納税者・主権者としての人格権に基づく差止請求が認められるか、(3)住民訴訟制度との対比から国政における国費支出についても訴訟による統制が可能かが争われた。 【判旨】 裁判所は、本件各訴えをいずれも不適法として却下した。まず、差止めの訴えにおける「処分」とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解されるところ、国葬儀の実施及び国費支出に関する閣議決定は、それ自体で国民に何らかの行動を義務付けたり法律上の権利義務を形成したりするものではなく、そのような法的効果を生じさせる法令上の規定も見当たらないとした。仮に原告らが事実上精神的苦痛を感じることがあるとしても、処分性は認められないとした。次に、原告らの主張する納税者・主権者としての人格権に基づく差止めの訴えは、その実質において国民一般の地位に基づく民衆訴訟(行訴法5条)に該当するが、国費の支出につき納税者ないし主権者の資格で差止訴訟の提起を認める法律の規定は存在しないと判示した。憲法は国費の支出について国会の議決を通じて国民の意思を反映させることを予定しており、個々の国民に支出の是非を争う権利を具体的に保障しているとは解されないとして、口頭弁論を経ずに訴えを却下した。