AI概要
【事案の概要】 訪問介護員である原告ら3名が、国(被告)に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた事案である。原告らは、それぞれ訪問介護事業場との有期雇用契約等に基づき訪問介護に従事していたが、移動時間や待機時間に係る賃金、利用者によるキャンセル時の休業手当の支払を十分に受けていなかった。 厚生労働省は、訪問介護労働者の労働条件が適正に確保されていない状況を踏まえ、平成16年及び平成21年に通達を発し、移動時間・待機時間の労働時間該当性やキャンセル時の休業手当の必要性等について都道府県労働局長に周知徹底を求めていた。しかし原告らは、介護報酬制度の構造上、事業場の努力では法令違反を解消できないにもかかわらず、厚生労働大臣及び労働基準監督機関が規制権限を行使して是正しなかったことが国賠法上違法であるとして、各330万円(慰謝料300万円及び弁護士費用30万円)の支払を求めた。 【争点】 厚生労働大臣及び労働基準監督機関による規制権限の不行使が、国家賠償法1条1項の適用上違法と評価されるか。 【判旨】 裁判所は、原告らの請求をいずれも棄却した。 まず、規制権限の不行使の違法性については、権限を定めた法令の趣旨・目的やその権限の性質等に照らし、具体的事情の下でその不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときに国賠法上違法となるとの判断枠組みを示した(最判平成元年11月24日、最判平成7年6月23日参照)。 その上で、厚生労働大臣については、個々の事業場の労働基準関係法令違反に対して監督指導を行う権限の根拠規定が労働基準関係法令及び介護保険法上存在しないとして、そもそも規制権限がなく、その不行使が違法と評価される余地はないとした。 労働基準監督機関については、労基法の定める労働条件の確保は第一次的には使用者の義務であり、国は後見的立場から行政的監督を行うものであるとした上で、原告らが所轄の労基署に対し法令違反の事実を申告した証拠がなく、監督機関に違反を疑わせる情報がもたらされていたとも認められないことから、規制権限の不行使が許容限度を逸脱して著しく合理性を欠くとは認められないと判断した。また、原告らが法令違反は事業場の努力では解消できないと主張する点についても、厚生労働大臣や監督機関がいかなる規制権限を行使すべきかの具体的主張がないとして退けた。