AI概要
【事案の概要】 自動車販売・修理会社に新卒入社した従業員A(当時20歳)の父である原告が、Aは先輩従業員から「死ねばいい」「辞めればいい」等の暴言を日常的に受けて適応障害を発症し、会社が労務環境を抜本的に改善しなかったために自死に至ったと主張して、被告会社に対し、安全配慮義務違反の債務不履行責任又は使用者責任に基づき、損害賠償金の相続分約4294万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。Aは平成28年4月に入社後、エンジニアとして勤務していたが、同年9月に失踪して適応障害と診断された。その後復職したものの、平成29年4月に再び失踪し、さらに同年5月にも3度目の失踪をした後、同年7月に自死した。原告は、先輩従業員による暴言・叱責、過大なノルマの賦課、会社の安全配慮義務違反がAの自死の原因であると主張した。 【争点】 主な争点は、①先輩従業員による暴言等のパワーハラスメントの有無、②過大なノルマの要求の有無、③被告の安全配慮義務違反の有無、④先輩従業員の不法行為に対する被告の使用者責任の存否、⑤暴言等とAの自死との因果関係の存否、⑥損害額である。被告は、従業員の発言は業務上の適正な指導の範囲内であり暴言には当たらない、ノルマは部門ごとの業務目標にすぎずペナルティもない、1回目の失踪後に指導体制を変更する等の適切な対応を取った等と反論した。 【判旨】 裁判所は、まず入社から1回目の失踪までの間の暴言について、先輩従業員Iから「死ねばいい」、Hから「辞めればいい」という発言(本件発言)があったと認定した。Aが失踪直後に原告に述べた内容や、弁護士相談・医師の診察で同旨の発言をしていることから信用性を認め、入社間もない新人に対する本件発言は業務上相当な指導の範囲を逸脱し、不法行為に該当すると判断した。一方、1回目の失踪後の暴言については、上司が従業員に優しい口調での指導を指示した後も暴言が続いたとは認め難いとして否定した。過大なノルマの要求についても、契約獲得目標は部門ごとに設定されたものにすぎず、新入社員の目標も各1件と適正な範囲内であるとして否定した。安全配慮義務違反についても、被告は2回目の失踪後に状況改善を約束し、診断書に基づき欠勤を許容していたこと等から、義務違反は認められないとした。自死との因果関係については、本件発言は希死念慮を当然に抱かせるものとはいえず、発言から自死まで10か月以上経過し、途中で症状が改善した時期もあること等から、相当因果関係を否定した。結論として、本件発言の不法行為について被告の使用者責任を認め、慰謝料80万円の相続分40万円と弁護士費用4万円の合計44万円の支払を命じ、その余の請求を棄却した。