AI概要
【事案の概要】 旧優生保護法(昭和23年制定、平成8年改正前のもの)に基づき不妊手術(優生手術)及び人工妊娠中絶手術を受けたとする女性(原告1)と、その夫の損害賠償請求権を相続した者(原告2)が、国に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた事案である。原告1は乳幼期に熱病を患い知的障害を負った女性で、昭和52年に夫(被承継人)と婚姻し、昭和56年に妊娠した。原告らは、夫の弟の妻であるIが原告1の知的障害を理由に出産に強く反対し、被承継人に優生手術の同意書への署名を強いた結果、原告1が病院で優生手術及び人工妊娠中絶手術を受けさせられたと主張した。原告らは、国会議員が昭和23年から平成8年まで違憲の優生保護法を廃止しなかったこと、厚生大臣が通達・指導を発しなかったこと、平成19年3月以降も被害者救済立法を制定しなかったこと、厚生労働大臣が被害回復措置を講じなかったことがいずれも違法であると主張し、原告1について1925万円、原告2について275万円の賠償を求めた。なお、被承継人は訴訟係属中に死亡し、原告1及び原告2が訴訟を承継した。 【争点】 主な争点は、(1)原告1に対する優生手術及び優生保護法14条1項1号に基づく人工妊娠中絶手術の実施の有無、(2)国会議員が優生保護法を廃止しなかった立法不作為の違法性、(3)厚生大臣の通達・指導義務違反の違法性、(4)平成19年3月以降の救済立法不制定の違法性、(5)厚生労働大臣の被害回復措置義務違反の違法性、(6)損害額、(7)除斥期間(民法724条後段)の適用の可否であった。特に争点(7)では、原告らが除斥期間の起算点は被害者にとって客観的に権利行使が可能になった時点と解すべきであること、除斥期間の適用は信義則・権利濫用により制限されるべきであること、除斥期間の適用自体が憲法17条に違反することを主張した。 【判旨】 裁判所は、争点(1)の事実認定の段階で原告らの請求を棄却した。まず優生手術の実施について、被承継人がIから同意書への署名を迫られたとする供述は反対尋問を経ておらず、医師の意見書や手術痕の写真等の客観的証拠も提出されていないと指摘した。さらに、北海道立心身障害者総合相談所の相談記録票には人工妊娠中絶手術の記載はあるものの優生手術に関する記載はなく、Iの証言も被承継人の供述と異なる内容であったことから、優生手術の実施を認めるに足りないと判断した。次に人工妊娠中絶手術の根拠条文について、原告1自身が中絶を認識して手術を受けたこと、家族の話し合いで決めたことからすれば、原告1が同意を求められなかったとは認め難いとした。加えて、当時の原告1夫妻の経済状況からすれば、経済的理由による同法14条1項4号に基づく中絶であった可能性も否定できないとして、同法14条1項1号に基づく手術であったとも認められないと結論づけた。以上から、その余の争点(立法不作為の違法性、除斥期間等)について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないとして棄却した。