AI概要
【事案の概要】 被告人は、令和元年11月下旬頃から同年12月5日までの間に、愛知県内又はその周辺において、覚せい剤を自己の身体に摂取し使用したとして起訴された事案である。被告人は一貫して覚せい剤の使用を否認した。 事件の経緯として、令和元年11月3日、交際相手Aの子からの通報を受けて警察官が被告人方に臨場したが、被告人は任意同行に応じず所在不明となった。Aの尿から覚せい剤成分が検出されて逮捕され、A使用車両から押収された注射器から被告人のDNA型が検出された。被告人は11月13日に任意で尿を提出したが覚せい剤成分は陰性であった。12月5日、警察官らは逮捕状等を執行するため被告人方に赴き、合鍵とチェーンカッターでドアを開けて被告人を逮捕した。逮捕後、担当のB警察官は約5時間にわたる取調べで任意採尿を促し、紙コップでお茶や水を合計20〜30杯飲ませたが、被告人は任意採尿に応じなかった。翌日、強制採尿が実施され、尿から覚せい剤成分が検出された。 【争点】 主な争点は、(1)被告人が自己の意思で覚せい剤を使用したか否か、(2)採尿前取調べの際に警察官が提供した飲料に覚せい剤が混入されていた可能性があるか、(3)強制採尿により採取された尿がすり替えられた可能性があるか、(4)鑑定書の証拠能力の有無であった。弁護人は、B警察官が提供したお茶に覚せい剤が混入されていた可能性があり、被告人には覚せい剤使用の故意がないと主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、被告人に無罪を言い渡した(求刑:懲役3年6月)。 裁判所は、B警察官の証言の信用性を厳しく否定した。B警察官は、起訴後に被告人の兄の氏名を冒用して現金1万円入りの書留郵便を2度送付するという私印偽造罪に該当しかねない不当な便宜供与を行い、公判廷でこれを一旦明確に否認する偽証をした。さらに、被告人に元配偶者の住所を教えたり、取調室で携帯電話機を自由に使用させるなど、複数の不当な便宜供与をしていた。 一方、採尿前取調べにおける飲料提供は、愛知県警の内部規定(覚せい剤使用の疑いがある被疑者には未開封のペットボトル入り飲料水を被疑者自らに開封させて飲ませる)に反し、紙コップで20〜30杯もの飲料を、被告人が見ていない場所で用意し、他の警察官による監視や動画撮影もされていなかった。被告人は捜査段階の早期から「お茶がとても苦かった」と一貫して供述しており、この供述を信用できないとして排斥することはできないとした。 裁判所は、B警察官のような「遵法精神の著しく鈍麻した警察官」が内部規定に違反する方法で飲料提供を行い、被告人が提供された飲料に異変を感じていることなどを総合すると、警察官が被告人に提供した飲料に覚せい剤が混入されていた可能性は抽象的なものにとどまらず「相当な確からしさを持っている」と判断し、被告人が自己の意思で覚せい剤を摂取したと認めるには合理的な疑いが残ると結論付けた。なお、強制採尿手続及びそれに先立つ逮捕手続については、令状主義の精神を没却する重大な違法はなく、鑑定書の証拠能力は認められるとした。