AI概要
【事案の概要】 脳腫瘍(膠芽腫)の治療のため被告病院に通院していた亡D(死亡時43歳・女性)の遺族である原告ら(夫・父・母)が、被告病院の医師らに対し損害賠償を求めた医療過誤訴訟である。亡Dは膠芽腫の再発が確認された後、てんかん発作を起こして被告病院に救急搬送された。被告医師らは、亡Dと夫が3日後のサンバカーニバルへの出場を強く希望していたことから、抗てんかん薬ラミクタールについて、添付文書が定める漸増投与(バルプロ酸ナトリウム併用時は最初の2週間は25mgを隔日投与から開始)に従わず、初回から維持用量上限の1日200mgを処方した。亡Dはその後、中毒性表皮壊死症(TEN)を発症し、両側肺炎及び肺出血により約20日後に死亡した。原告らは、添付文書の用法・用量に反した処方の過失及び重篤な副作用に関する説明義務違反を主張した。 【争点】 1. ラミクタール投与上の過失(添付文書の用法・用量違反)の有無 2. ラミクタール投与に関する説明義務違反の有無 3. 上記過失・説明義務違反と亡Dの死亡との因果関係 4. 損害額 【判旨】 裁判所は、被告医師らの過失及び説明義務違反をいずれも認め、原告らの請求を一部認容した。 第一に、投与上の過失について、ラミクタールの添付文書には冒頭の「警告」欄にTEN・SJS等の重篤な皮膚障害への注意が明記され、用法・用量を遵守しない場合に皮膚障害の発現率が約3倍に高まるとの臨床試験結果も記載されていたことから、添付文書に反する処方をする合理的理由がない限り、用法・用量を遵守する義務があったと判示した。被告らはサンバ大会出場のためにてんかん発作の抑制が急務であったと主張したが、裁判所は、本件処方でも短期間で血中濃度を安定させられたか疑義があること、少量でも種類の違う抗てんかん薬の投与で一定の発作抑制効果が認められることを指摘し、添付文書違反の合理的理由を否定した。 第二に、説明義務違反について、添付文書に反する処方を行う以上、副作用の内容・程度等を患者が具体的に理解し得るよう説明すべき義務があったにもかかわらず、SJS・TENの発症可能性等の説明をしなかった点で義務違反を認めた。 因果関係についても、用法・用量を遵守していればTENの発症・死亡を回避できた高度の蓋然性があるとして肯定した。損害額については、亡Dの余命が膠芽腫再発により約3か月と予測されていた事情を考慮し、慰謝料を減額した上で、原告A(夫)に1108万3040円、原告B・C(両親)に各220万円の支払を命じた。