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【事案の概要】 本件は、特許第4659980号「二酸化炭素含有粘性組成物」(部分肥満改善用化粧料、又は水虫・アトピー性皮膚炎・褥創の治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキット及びその調製方法に関する発明。以下「本件特許」という。)の特許権者である被告株式会社メディオン・リサーチ・ラボラトリーズに対し、原告ネオケミア株式会社が特許無効審判を請求した事件の審決取消訴訟である。 本件特許は、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸又は炭酸塩を含む顆粒剤とを組み合わせたキット(2剤式)とし、使用時に両者を混合して炭酸塩と酸を反応させることで気泡状の二酸化炭素を含有する粘性組成物を得るものである。原告は、特開昭63-310807号公報(甲1文献)に記載された1剤式発泡エッセンス(PEG4000で被覆したアルギン酸ナトリウム・炭酸水素ナトリウムと、PEGで被覆したクエン酸とを均一に混和し、用時水に溶解して使用する組成物)と、特開平6-179614号公報(甲2文献)に記載されたアルギン酸水溶性塩類を含有するゲル状パーツと金属塩類を含む粉末パーツからなる2剤式パック化粧料の技術事項等に基づき、当業者が容易に発明をすることができたとして、進歩性欠如を理由に無効審判を請求した。しかし特許庁は平成30年3月12日に審判請求不成立の審決をし、原告はこれを不服として本件審決の取消しを求めた。 【争点】 引用発明1に甲2文献記載の技術事項を組み合わせて本件発明の構成(相違点B)に至ることが、当業者にとって容易に想到し得たか否か。具体的には、引用発明1にアルギン酸ナトリウムを水に溶解する際の「ダマ形成問題」や「攪拌問題」といった課題が存在し、これが甲2文献記載の技術事項と共通することで組合せの動機付けが認められるか、が争われた。 【判旨】 知的財産高等裁判所第3部は、原告の請求を棄却した。 裁判所はまず、甲1文献の経日安定性に関する記載から、引用発明1の課題は経日安定性の改善であり、その解決手段として「アルギン酸ナトリウム・炭酸塩含有PEG被覆粉末」と「酸含有PEG被覆粉末」の2剤に分けることが当業者に容易に想到されると指摘した。しかし、そこから更に進んで甲2文献記載の技術事項を組み合わせる動機付けは見当たらないと判示した。 また、引用発明1は炭酸ガスによる血行促進作用で皮膚を賦活化させる発泡性化粧料であり、アルギン酸ナトリウムは安定な泡を生成して二酸化炭素の保留性を高めるために配合されているのに対し、甲2文献には二酸化炭素の発生に関する記載はなく、アルギン酸ナトリウムは金属塩類との反応で皮膜を形成するために配合されているもので、化粧料の使用目的もアルギン酸ナトリウムの配合目的も異なると指摘した。両文献には、両者を組み合わせた場合に引用発明1の発泡性及びガス保留性を維持できることを示唆する記載もないとした。 原告主張のダマ形成問題については、炭酸塩とアルギン酸ナトリウムの混合物がPEGで被覆された引用発明1の粉末では、被覆のないアルギン酸ナトリウム粉末と水和の容易さが異なり、当業者がダマ形成の課題を見出すとは認められないとした。攪拌問題についても、甲1文献に記載も示唆もなく、引用発明が発泡性及びガス保留性で良好な試験結果を示していることに照らせば、素早く徹底的な攪拌が必要であるという課題があるとは解し得ないとして、いずれも排斥した。 以上により、引用発明1に甲2文献記載の技術事項を組み合わせる動機付けはなく、本件発明の容易想到性を否定した審決の判断に誤りはないとして、原告の請求を棄却した。本判決は、進歩性判断において引用文献相互の組合せの動機付けを認めるには、課題の共通性や技術分野の関連性だけでなく、具体的な構成の配合目的や作用効果の整合性まで慎重に検討する必要があることを示した事例である。