補償金請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、発明の名称を「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物」とする特許権(本件特許権)を有する一審原告(医薬品・化粧品等の研究開発・販売会社)が、一審被告(旧商号・株式会社グラシアス)の製造販売する炭酸パック製品が本件特許の技術的範囲に属すると主張し、特許法65条1項の補償金請求権に基づき、本件特許の出願公開日から設定登録日までの期間(平成25年10月11日から平成26年11月7日まで)の補償金を求めた事案である。本件特許権に係る発明は、水と増粘剤を含む粘性組成物と、炭酸塩および酸を含む複合顆粒剤等を組み合わせた2剤型のパック化粧料のキットであり、粘性組成物に気泡状の二酸化炭素を保持し、持続的に経皮吸収させる点に技術的特徴がある。原審(大阪地裁)は被告製品が本件発明の技術的範囲に属し、特許無効の抗弁も理由がないとして、一審被告に1507万8405円およびその遅延損害金の支払を命じたところ、双方が控訴した。 【争点】 主たる争点は、(1)被告製品が構成要件Aの「気泡状の二酸化炭素を含有する」を充足するか、(2)被告製品が本件発明特有の作用効果を奏しないとする「作用効果不奏功の抗弁」の成否、(3)本件特許に進歩性欠如・冒認出願・共同出願義務違反等の無効理由があるか、(4)補償金算定における相当実施料率をいくらと認めるかである。とりわけ冒認出願の主張は当審で新たに追加されたもので、本件発明の真の発明者は鐘紡元従業員Q・Rらであって、ネオケミア社元代表Pと医師Sのみを発明者として出願したことは冒認に当たるかが問題となった。 【判旨】 知財高裁は、一審原告の控訴に理由があるとして原判決を変更し、一審被告に2154万0578円および遅延損害金の支払を命じ、一審被告の控訴を棄却した。まず本件発明の技術的特徴は、含水粘性組成物の粘性を利用して二酸化炭素を組成物中に保持し、持続的に経皮吸収させる点にあると認定した。構成要件Aの充足性については、請求項上、二酸化炭素の含有量や効果の程度を特定する記載はなく、気泡状の二酸化炭素を含む組成物が得られるキットであれば足りるとして、これを肯定した。作用効果不奏功の抗弁も、本件発明は特定の使用時間内に効果を発揮することを要件とするものではないとして排斥した。進歩性欠如の主張についても、鐘紡発明(主引用例)はポリエチレングリコールで被覆した固型物を採用することによりガス保留性を高めるものであるから、その被覆を外してゲル化した含水粘性組成物に変更する動機付けはないとして否定した。冒認・共同出願義務違反については、時機に後れた攻撃防御方法には該当しないとして実体判断に入った上で、本件発明の技術的思想の創作に現実に関与したのはPとSであり、Q・Rの関与は製品具体化のための補助的作業にすぎないとして、Sの発明者性を肯定し無効理由を否定した。補償金額については、被告製品が本件発明の構成を全面的に採用している以上、対比実験(乙26)を根拠に寄与が限定的であるとした原審の認定は相当でないとして実施料率を引き上げ、補償金額を増額した。本判決は、特許法65条1項の補償金請求事件において、特許発明の構成を備えた被告製品に対する本件発明の寄与を全面的と評価した点、および冒認出願の主張における発明者性の認定基準(技術的思想の創作への現実の関与)を示した点で実務上参考となる。