育成者権侵害差止等請求控訴,同附帯控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 種苗法に基づき品種登録されたしいたけ(登録第7219号、以下「本件品種」)の育成者権を有する被控訴人(森産業株式会社)が、控訴人(株式会社河鶴)ほか関連会社が平成23年8月頃以降、本件品種に係るしいたけの種苗(菌床)及び収穫物を生産・譲渡等しているのは本件育成者権の侵害にあたると主張し、差止め、廃棄、謝罪広告の掲載、及び約2億5063万円の損害賠償を求めた事案である。控訴人が仕入れていた菌床は、日本の輸入業者SSITが中国法人から輸入していたものであり、請求書上は「L-808」と表記されていたが、その後のDNA鑑定等により本件品種と同一である可能性が高いと判明した。原審(東京地裁)は侵害を一部認容し、控訴人が敗訴部分について控訴、被控訴人が損害額増額と謝罪広告について附帯控訴した。 【争点】 主要な争点は、(1)種苗法2条5項2号のいわゆるカスケイド原則(育成者権の段階的行使の原則)の適用上、収穫物に対する権利行使が可能な場合に該当するか、特に被控訴人が菌床輸入業者SSITに対する権利行使の機会を有していたといえるか、(2)菌床栽培について品種登録簿に特性表が添付されていない本件品種の育成者権が菌床栽培のしいたけに及ぶか、権利濫用とならないか、(3)種苗法35条の過失推定規定の適用と、その覆滅事由の有無、(4)差止請求、廃棄請求、謝罪広告請求の可否、(5)逸失利益等の損害額の算定である。 【判旨】 知財高裁は、原判決を一部変更し、控訴人に891万6375円及び遅延損害金の支払を命じ、差止め・廃棄・謝罪広告請求はいずれも棄却した。カスケイド原則について、被控訴人が本件回答書受領により菌床の輸入業者SSITの存在と所在を現実に覚知した後は、種苗の段階で権利を行使する適当な機会があったと認められるとし、平成25年2月以降の収穫物の譲渡等については法2条5項2号の適用要件を欠き権利行使できないと判示した。もっとも、侵害警告到達(平成24年5月16日)から調査に要する相当期間の経過後、SSITへの権利行使が可能と認められる時期までの間、すなわち平成24年6月から平成25年1月までの8か月間に限り、控訴人に本件育成者権侵害の不法行為が成立するとした。権利濫用の主張及び法35条の適用排除・過失推定覆滅の主張はいずれも排斥し、原木栽培の特性表のみが添付されていた事情は過失推定を覆滅するに足りないと判断した。損害額は法34条1項に基づき、侵害期間の譲渡数量15万5579.297kgに1kg当たり利益152円を乗じたうえ、被控訴人が「販売することができないとする事情」として70%を控除し、逸失利益709万4415円に調査費用101万1960円及び弁護士費用81万円を加えた891万6375円を認容した。差止め・廃棄・謝罪広告については、収穫物販売に対するカスケイド原則の制約及び侵害の程度に照らし必要性が認められないとして棄却した。本判決は、種苗法におけるカスケイド原則の「権利を行使する適当な機会」の有無を、育成者権者が侵害警告の回答等により種苗の利用者を具体的に覚知できたかという観点から判断した点、及び品種登録簿の特性表の不備が過失推定覆滅事由とはならないことを明示した点で実務的意義を有する。