AI概要
【事案の概要】 本件は、実用新案登録第3149092号(名称「振動器」、請求項3、平成20年12月25日出願、平成21年2月18日設定登録)の無効審判請求を不成立とした特許庁の審決について、無効審判請求人である原告(アルインコ株式会社)が、実用新案権者である被告を相手取り、その取消しを求めた事件である。本件考案は、美容又は運動用の振動器に関するもので、底座体と上板を備え、上板の中央部に設けた中心軸を第一・第二8字形リンクロッドで支持し、前部の第一モータで回転する第一駆動ホイールと第一偏心軸・第三8字形リンクロッドで上板前部を連結し、後部の第二モータで回転する第二駆動ホイールと第二偏心軸・リンクロッドで中心軸を連結した構造により、上下振動・前後振動・両者を複合した弧形運動という複数方向の振動を発生させる点に特徴がある。原告は、請求項1の分説B・Cが「介して」という文言で各部材の連結関係を規定するにとどまり、第1駆動系が上下振動のみ、第2駆動系が前後振動のみを担う実施例以外の構成(上下振動のみしか生じない原告指摘振動器1、前後振動のみしか生じない原告指摘振動器2)をも形式的に包含する旨主張し、サポート要件違反(実用新案法5条6項1号)及び明確性要件違反(同項2号)を理由に審決取消しを求めた。 【争点】 本件考案1が、実用新案登録請求の範囲と考案の詳細な説明との関係においてサポート要件に適合するか、及び、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確でないか(明確性要件の充足)が争点である。実質的には、請求項の「介して」との文言が、原告主張の駆動系入替え構成までをも含む広範な記載といえるか否かの解釈問題に帰着する。 【判旨】 知財高裁は、原告の請求を棄却した。明確性要件については、請求項の記載のみからは連結態様が直ちに明らかでないとしても、明細書【0007】~【0012】及び図面において、第1駆動系による上板の上下振動、第2駆動系による前後振動、両者の複合による弧形運動という三態様のみが記載されており、本件考案の技術的意義は「第1駆動系により上下振動、第2駆動系により前後振動を生じさせて複数方向の振動を実現する」点にあると認められるから、「介して」の連結固定関係も当該技術的意義に沿って限定的に理解され、第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確とはいえないと判断した。サポート要件についても、同様の解釈に立つ以上、原告指摘振動器1・2は請求項1に含まれず、請求項1の記載は当業者が課題(複数方向の振動を発生させる振動器の提供)を解決できると認識し得る範囲にとどまるとした。また、考案の詳細な説明が図面を引用して説明している以上、図面も一体として「考案の詳細な説明」を構成するとの解釈を示した点にも実務的意義がある。本判決は、クレーム解釈に際し明細書・図面・技術常識を参照して技術的意義に照らした合理的限定を行う手法を明示した事例として、記載要件審査の在り方に示唆を与えるものである。