AI概要
【事案の概要】 被告人は、医療法人が運営する介護施設の経理担当者として、同施設名義の預金口座の管理等の業務に従事し、その預金を業務上預かり保管していた者である。被告人は、平成30年10月頃にSNSを通じて面識のない外国の軍人を名乗る人物(本件外国人)と知り合い、メッセージアプリ等で連絡を取り合う中で好意を抱き、来日費用の立替えや税関での所持金没収を免れるための罰金等の名目で送金を依頼されるや、当初は自己資金から本件外国人側への送金を繰り返していた。しかし、自己資金が底をついた後も、本件外国人の資産から後日返済してもらえると信じ、本件外国人側への送金原資を捻出するため、本件各犯行に及んだ。 具体的には、被告人は、自己の用途に費消する目的で、本件施設に設置されたパーソナルコンピュータを操作し、インターネットバンキングシステムを利用して、平成30年12月25日に本件施設名義の普通預金口座から被告人名義の通常貯金口座に550万円を振込入金し、同月31日にも同様の方法により平成31年1月4日に450万円を振込入金し、もって合計1000万円を横領した。検察官の求刑は懲役2年6月であった。 【判旨(量刑)】 名古屋地裁は、被告人を懲役1年8月の実刑に処した(未決勾留日数中30日を刑に算入)。 裁判所は、本件が被害額1000万円と多額であり、かつ常習的な犯行である点で犯情は良くないと指摘した。もっとも、被告人は詐欺の被害者である可能性が高く、送金した自己資金の返還を一切受けていないことは同情に値するとしつつも、好意を抱いた本件外国人に会いたいなどの思惑から勤務先の資金を横領した行為は正当化できず、被害者側が厳正な処罰を求めるのも当然であるとした。 他方、被告人に有利な事情として、起訴分の被害弁償はできていないものの、余罪の被害額のうち3000万円分の被害弁償に充てるため自宅の土地建物や自動車等ほぼ全財産の所有権を被害者に移転し、売却により少なくとも1000万円程度の余罪分被害弁償への充当が見込まれていること、余罪分を含めて横領金全額を本件外国人側に送金し、現実的な利益を享受していないこと、事実を素直に認めて反省し更なる被害弁償の意思を示していること、前科がなく長年本件施設で真面目に勤務してきたことを挙げた。 しかし、これらの酌むべき事情を最大限考慮しても、本件の犯情や被害回復の状況等に照らすと執行猶予を付するのは相当でないとして、実刑は免れないと判断した。