不当利得返還請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、東日本大震災(平成23年3月)の発生当時、仙台市内の本件マンションに居住していた控訴人ら(住民)が、被災者生活再建支援法に基づく支援金の返還を求められた事案である。発災直後、α区が実施した第2回調査により、本件マンションの被害程度が「大規模半壊」と判定され、これに基づくり災証明書が発行された。控訴人らは、このり災証明書に基づき、被控訴人(被災者生活再建支援法人)から各150万円または100万円の支援金の支給を受け、これを生活再建のために費消した。ところが、その後、本件マンションを含むマンション群のうち、他の8棟との判定結果に差があったことから、職権により一級建築士を同行した第3回調査が実施された結果、本件マンションの被害程度が「一部損壊」と再判定され、新たなり災証明書が発行された。これを受けて、被控訴人は先の支給決定(原決定)を取り消し、控訴人らに対し、支援金は法律上の原因なく支給されたものであるとして、不当利得に基づく返還を求めた。原審(東京地裁)は被控訴人の請求を全部認容したため、控訴人らが本件控訴を提起した。 【争点】 支援金の支給要件が事後的な再調査で否定された場合に、支給決定(授益的行政処分)を職権で取り消すことが許されるか、また、取消処分が無効と評価される余地があるかが争点である。授益的処分の職権取消しについては、処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当である場合に限り許されるとの判例法理が適用される。 【判旨】 本判決は、原判決を取り消し、被控訴人の請求をいずれも棄却した。支援法の趣旨は、自然災害により生活基盤に被害を受けた被災者に対し、支援の必要性が高い時期に速やかに資金援助を行い、生活再建および被災地復興を図ることにある。平成19年改正により、支援金は使途を限定しない定額渡し切り方式となり、速やかに生活再建のために費消されることが予定されている。また、東日本大震災では内閣府から運用指針より簡便な調査方法が示され、厳密性・正確性を一定程度犠牲にしてでも迅速性を優先する運用がされており、これは支援法の趣旨に沿うものであって社会一般の承認も得られていた。本件では、第2回調査の手続・内容に当時の運用上の問題はなく、控訴人らには支給要件を欠く支援金の受給について何らの帰責性もない上、本件各原決定が将来取り消されることを予想することも困難であった。職権による専門家の再調査で判定が変更されたからといって支援金の返還を求めれば、被災者は支援金を安んじて費消できず、支援金制度の実効性と制度への信頼を大きく損なうこととなる。他方、原決定の効果を維持しても、適正な支給の実施に対する社会一般の信頼や他の被災者との公平感が具体的に害されるとはいえない。よって、原決定を放置することが公共の福祉に照らし著しく不当とは認められず、本件各処分は違法である。さらに、本件各処分は支援金支給の根幹に関わる重大な瑕疵を有し、出訴期間の経過を理由に控訴人らに重大な不利益を甘受させることは著しく不当であって、瑕疵の明白性を問わず当然無効と解すべきである(最一小判昭和48年4月26日参照)。したがって原決定は効力を有し、控訴人らは法律上の原因なく利益を受けたものではないから、不当利得返還請求は理由がない。