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【事案の概要】 平成29年1月に三つ子を出産した被告人(母親)が、生後11か月の二男に対して暴行を加え死亡させた傷害致死事件の控訴審判決である。被告人は、三つ子の育児をする中で次第に負担感を募らせ、特に二男の泣き声に苦痛を感じるようになっていた。平成30年1月11日午後7時頃、激しく泣き止まない二男といら立ちを感じた被告人は、自宅和室で二男を両手で仰向けに持ち上げ、畳の上に2回たたきつける暴行を加え、頭蓋冠骨折やびまん性脳損傷等の傷害を負わせ、二男を約2週間後に死亡させた。被告人は、犯行前の約30分間、自分の太ももをたたくなどしていら立ちを抑えようと試みていたほか、犯行の4日前にも同様の行為を行い、その後インターネットで「頭部外傷」「乳児」「虐待」「懲役」等の記事を閲覧していた。犯行直後には被告人自ら119番通報し、臨場した救急隊員に対しては「過って落とした事故」であると虚偽の説明をした。第一審(裁判員裁判)は被告人を懲役3年6月の実刑に処しており、被告人側が事実誤認(心神耗弱)と量刑不当を主張して控訴した。 【争点】 争点は、(1)犯行当時の被告人の責任能力(完全責任能力か心神耗弱か)、(2)量刑の相当性(執行猶予の可否)の2点である。責任能力については、被告人が産後鬱病により心神耗弱の状態にあった合理的疑いがあるか否かをめぐり、起訴前鑑定(完全責任能力を肯認)と弁護人依頼の鑑定(鬱病の症状が犯行に著しい影響を与えたと証言)の信用性が対立した。 【判旨(量刑)】 名古屋高裁は本件控訴を棄却し、懲役3年6月の実刑判決を維持した。責任能力に関しては、起訴前鑑定が一般的な手法で行われ結論に至る推論も合理的であるのに対し、弁護人依頼鑑定は心理検査を実施せず関係者面接も不十分で、被告人の捜査段階供述の検討を欠くなど手法・前提事実に問題があると評価した。犯行動機が一般人に了解可能で犯行態様も合目的的であること、約30分間いら立ちを抑えようと試みたこと、乳児用寝台から抱き上げて和室に移動した上で犯行に及び、それ以上の危害を加えなかったこと、犯行後の119番通報や虚偽説明などから、犯行当時に現実の状況を的確に把握し、行動を制御し、行為の意味や違法性を認識していたと認定した。量刑についても、本件は生後11か月の乳児を1メートル超の高さから畳に2回たたきつけた重大かつ悪質な犯行であり、動機は身勝手であるとしつつ、産後鬱病の影響や多胎育児の困難性、一人で問題を抱え込んだ経緯など酌むべき事情も考慮した上で、裁判員裁判の量刑判断を尊重し、刑の執行を猶予することができるほど軽い事案ではないと判断した。量刑資料の検索結果に登録された個別事例を取り上げて量刑判断の当否を問う手法は、方法論として妥当でないとも指摘している。