AI概要
【事案の概要】 本件は、偽造デビットカードを使用してATMから現金を窃取した組織的な引き出し窃盗事件において、被告人が共犯者らと共謀していたかが争われた刑事事件である。 公訴事実は、被告人がA、Bら氏名不詳者と共謀の上、南アフリカ共和国所在のRバンク発行名義のデビットカードを偽造し、平成28年5月15日午前6時過ぎから約2時間半の間に、実行犯らが福岡市博多区のコンビニエンスストアほか71か所において、783回にわたり不正カード46枚をATMに挿入して合計7830万円を窃取したというものである。求刑は懲役10年であった。 Aが本件犯行を画策し、Jに偽造カード約100枚を持たせて福岡市に向かわせ、BがJからカードを受け取って実行犯らに配付し、実行犯らがATMから現金を引き出したという一連の事実関係自体は争われていない。 【争点】 被告人とA及びBらとの間で、本件犯行について共謀が成立していたかが主たる争点である。 検察官は、共謀成立の根拠として、①Aが被告人を「九州の兄貴」と称して本件犯行に関与させる旨の発言をしていたこと、②犯行2日前の5月13日に被告人がA、Bらと合流した場に居合わせたこと、③Jからカードを受領する際のAと被告人、被告人とB間の通話履歴、④被告人がKに指示してBから窃取金を受領させたこと、⑤被告人が窃取金から190数万円を受領したこと、⑥本件発覚後、共犯者らが被告人に相談していたことなど、6点を総合考慮すべきと主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、検察官が主張する各間接事実について、いずれも共謀の成立を推認させるものとはいえないと判断した。 「九州の兄貴」発言については、Aが実際にその人物に働きかけたかは判然とせず、A自身は後ろ盾があるように装うための虚言であった旨供述しており、これを排斥できない。犯行2日前のガソリンスタンドでの合流は、共通の知人Pが警察署に呼び出されたことを心配して集まったという各供述が一致しており、その場で謀議がなされたと推認するには足りない。通話履歴については、B及びAが飛ばしの携帯電話機を複数所持していた供述を排斥できず、別表2以外にA・B間の通話があった可能性は否定できない。 Kへの指示については、Kの供述に不自然な点があるほか、被告人が本件犯行を知っていたならばKを福岡市内で転々と移動させる指示は不合理であり、Aが被告人に犯行を秘して借金返済のためにKを連絡係として使った可能性が十分にある。190数万円の受領については、Aが被告人から300万円を借り、未返済の200万円の返済であったとする供述がA、B、Hと一致しており、犯罪収益との認識を推認できない。発覚後の相談についても、A、B、Hいずれも被告人の関与を否定している。 以上より、共謀の成立には合理的な疑いが残るとして、刑事訴訟法336条により被告人に無罪を言い渡した。