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【事案の概要】 被告人は、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」において展示されていた「平和の少女像」の展示を中止させる目的で、令和元年8月2日早朝、愛知県一宮市内のコンビニエンスストアに設置されたファクシミリ機能付きマルチコピー機を使用し、同少女像の展示会場である愛知県美術館宛てに匿名で書面をFAX送信した。送信された書面には「要らねえだろ史実でもねえ人形展示。」「FAX届き次第大至急撤去しろや!!」「さもなくば、うちらネットワーク民がガソリン携行缶持って館へおじゃますんで~」などと記載されており、美術館にガソリンをまいて放火することをほのめかす内容であった。 この書面を閲読したあいちトリエンナーレ実行委員会事務局を務める愛知県県民文化局の職員らは、関係部署への報告、警察への通報、経過報告資料の作成等の対応を余儀なくされ、正常な業務の遂行に支障を生じた。被告人は威力業務妨害罪(刑法234条)で起訴された。被告人は事実を認め、反省と謝罪の意を示していた。検察官は懲役1年6月を求刑した。 【判旨(量刑)】 名古屋地方裁判所は、被告人を懲役1年6月に処し、未決勾留日数中40日をその刑に算入した上で、裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予した。 量刑の理由として裁判所は、本件犯行が、ガソリンを用いた放火により多数の死傷者が出た事件の発生から間もない時期に、来館者の多い美術館に宛てて同様の事件をほのめかす内容の書面を送付したものであり、書面を閲読した者に強い恐怖心を抱かせるものといえるから、その点で悪質であると評価した。また、対応に追われた関係者が被告人の厳重処罰を望むのも当然であると指摘し、被告人の刑事責任を軽く見ることはできないとした。 他方で、酌むべき事情として、被告人が事実を認めて反省の態度を示すとともに謝罪の意を示していること、30年以上前の過失犯による罰金前科以外に前科がないことを挙げた。これらの事情を総合考慮し、主文の刑を科した上でその執行を猶予するのが相当であると判断した。本判決は、表現活動の自由が問題となる文化事業に対し、放火をほのめかす脅迫的書面を送信して業務を妨害した行為について、実刑と執行猶予付き判決の境界線を示した事例として注目される。