育成者権に基づく差止請求権不存在確認請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、屋上緑化用の植物「常緑キリンソウ」の種苗をめぐる、育成者権に基づく差止請求権および損害賠償請求権の不存在確認を求めた訴訟である。緑化事業を営む一審原告(ブルージー・プロ株式会社)は、登録品種「トットリフジタ1号」「トットリフジタ2号」の育成者権を持つ一審被告から、カット苗をユアサ商事を介して購入し、下請農家に栽培させて屋上緑化商品「みずいらず」等を製造・販売していた。平成24年3月に一審被告側からカット苗の供給が停止された後、一審原告は公知のタケシマキリンソウ種への切り替えを進めたが、平成25年2月、阪神高速大和川線の料金所屋上緑化工事に出荷した「みずいらず」453トレイに使用された種苗(本件被疑種苗)について、違法増殖をしたとして種苗法違反で刑事事件となった経緯がある。こうした状況で一審原告は、自らが生産・販売するタケシマキリンソウ種の種苗を用いた商品について、一審被告の差止請求権が及ばないことの確認を求めるとともに、本件料金所向けに出荷した商品についても損害賠償請求権が不存在であることの確認を求めて提訴した。原審(大阪地裁)は差止請求権不存在確認請求を認容し、損害賠償請求権不存在確認請求を棄却したため、双方が控訴した。 【争点】 争点は多岐にわたるが、主要なものとして、(1)差止請求権不存在確認の訴えの利益の有無、(2)本件被疑種苗がトットリフジタ1号またはこれと明確に区別されない品種といえるか、(3)本件品種登録に育成者性の欠如・区別性の欠如・新規性の欠如といった原始的瑕疵、あるいは均一性・安定性の喪失といった後発的瑕疵があり、育成者権の行使が権利濫用に当たるか、(4)当審で追加された争点として、本件特性審査が適用対象植物を誤ったことを理由に、本件品種登録自体が無効となるか、(5)正規に購入した登録種苗を無許諾で増殖・販売する行為について育成者権の消尽が成立するかである。 【判旨】 大阪高裁は、一審原告・一審被告双方の控訴をいずれも棄却したうえ、一審原告が当審で請求を減縮した差止請求権不存在確認請求を認容する旨を主文に付記した。まず、本件被疑種苗については、DNA鑑定(10マーカーおよび20マーカーによる鑑定)および比較栽培試験の結果から、トットリフジタ1号と同一であると認定し、一審原告が正規に購入した登録種苗を無許諾で増殖して販売した行為は「生産」に当たり消尽は成立しないと判断した。次に、一審原告が主張する育成者性の欠如(P8准教授が育成者である可能性)や、公知のタケシマキリンソウ種との区別性の欠如、新規性の欠如といった原始的瑕疵については、証拠上いずれも認めるに足りないとした。当審で追加された「特性審査の瑕疵による登録無効」の主張については、行政処分の無効には重大かつ明白な瑕疵を要するとの最高裁昭和36年3月7日判決を踏まえ、本件特性審査は種苗管理センターの調査に基づき農林水産省審査官が審査基準を策定して実施されたものであり、仮に対象植物の選定に誤りがあったとしても、登録要件を満たす以上、明白かつ重大な瑕疵があるとはいえないとして、登録無効の主張を退けた。他方、一審被告側関係者が「常緑キリンソウ」はトットリフジタ1号・2号のみであるとの誤解を生じさせる宣伝を行っていたことから、一審原告が別系統のタケシマキリンソウ種を生産販売できる法的地位に不安が生じているとして、差止請求権不存在確認の訴えの利益を肯定し、同請求を認容した原判決を是認した。植物新品種の登録処分の無効要件と、育成者権に基づく権利範囲の確定について判断を示した事例として、種苗法実務上参考となる判決である。