AI概要
【事案の概要】 本件は、引きこもり状態にあった娘Dの自立支援を求めた母Cが、引きこもり支援業務を行う被告会社との間で、Dの社会復帰支援を内容とする業務委託契約(対価約570万円、有効期間90日)を締結したことに端を発する損害賠償請求事件である。 Dは高校時代から不登校傾向にあり、大学退学後は実家を出て一人暮らしをしていたが、家族関係は悪化していた。Cは平成27年9月、被告会社に相談し、代表者E(元警察官)や相談室長Fらと面談の上、本件契約を締結した。被告会社には医療・福祉・心理学の専門資格を持つ職員はおらず、Eが民間資格である「ひきこもり支援相談士」を有するのみであった。 契約締結後、Eら被告会社職員約8名は、D本人の同意なく、Dが一人暮らしするマンションの玄関ドアチェーンをバールで破壊して入室し、Dを千葉県柏市内の寮(柏寮)に転居させた。その後、Dは埼玉県越谷市のA寮・B寮へと順次移され、被告会社はDの携帯電話・現金・身分証等を預かり、職員が常時付き添う生活を送らせた。Dは一時的に柏警察署や地域支援センター等に「自由を制限されている」と訴えたほか、友人と連絡を取って逃亡を試みたこともあった。 Cは、被告会社が専門家による適切な支援を行わなかったとして契約代金相当額等の損害賠償を、Dは、自由を奪われ暴力を受けたとして被告会社・E・F・Gに対し慰謝料1000万円等を請求した。 【争点】 主な争点は、(1)本件契約に基づき被告会社が負うべき債務の内容と債務不履行の有無、(2)Eらが行った一連の行為(立入り・身柄確保・所持品預かり・寮生活の強制・職員Iによる暴行等)の不法行為該当性、(3)損害額とCの過失相殺である。 【判旨】 裁判所は、本件契約の目的達成には、支援対象者の状態を的確に把握する情報収集と、引きこもり原因の分析に即した支援方法の策定・実施が債務の本旨として求められると判示した。その上で、被告会社にはD本人からの聴取りや精神疾患可能性を踏まえた医療機関受診もなく、業務日誌もほぼ未作成で、支援準備・転居支援・住居提供・生活指導・就職支援のいずれも債務の本旨に従った履行とはいえないと認定した。業務完了確認書の提出があっても債務不履行の不存在は基礎付けられないとし、契約代金相当額のうち500万円を損害と認めた上で、Cが虚偽・誇張を含むメモを提出するなど被告会社の不履行を助長した落ち度を考慮して1割の過失相殺を行い、450万円の賠償を命じた。 不法行為については、緊急性もなくDの同意なく玄関チェーンを破壊して立ち入った行為(本件行為1の一部)がDの管理権を侵害するとして違法と認め、また、Dの真意に基づかない同意書に依拠して携帯電話・現金を預かり、職員の常時付添いの下で他の場所への自由な移転を困難にした行為(本件行為3の一部)が行動の自由を侵害するとして不法行為を構成すると判断した。他方、職員Iによる暴行・脅迫、写真撮影や日記内容の強要、男子寮居住の強要、就労妨害等については客観的証拠を欠くとして排斥し、慰謝料50万円及び弁護士費用5万円の計55万円の連帯支払を命じた。被告会社は代表者Eの行為につき会社法350条、職員F・Gの行為につき民法715条1項により責任を負うとされた。