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知財

特許取消決定取消請求事件

判決データ

事件番号
平成29行ケ10117
事件名
特許取消決定取消請求事件
裁判所
知的財産高等裁判所
裁判年月日
2018年11月6日
裁判官
鶴岡稔彦寺田利彦間明宏充

AI概要

【事案の概要】 本件は、発明の名称を「マイコプラズマ・ニューモニエ検出用イムノクロマトグラフィー試験デバイスおよびキット」とする特許第5845033号(本件特許)の特許権者である原告(アルフレッサファーマ株式会社)が、特許異議申立てを受けて同特許を取り消す旨の特許庁の決定(本件取消決定)に対し、その取消しを求めた審決取消訴訟である。 本件特許発明は、マイコプラズマ・ニューモニエのP1タンパク質抗原に対して特異的な二種類のモノクローナル抗体と膜担体を備え、一方を膜担体に固定して検出部位を構成し、他方を標識物質で標識のうえ移動可能に配置する構成を採り、検体中のマイコプラズマ・ニューモニエ抗原と標識抗体との複合体を検出部位で捕捉して発色させることで、咽頭拭い液や鼻腔吸引液等の臨床検体から短時間で感染を検出できる迅速診断キットに関するものである。マイコプラズマ肺炎の診断では、従来は分離培養法に数週間を要し、PCRも操作が煩雑であったため、開業医レベルで使用可能な簡便な抗原検出キットの開発が医療現場から求められていた。 特許庁は、引用例1(国際公開第2008/021862号公報)に記載された発明等に基づき当業者が容易に発明できたとして、本件特許を取り消す決定をした。原告は、引用発明の認定や一致点・相違点の認定に誤りがあるなどとして本訴に及んだ。 【争点】 主な争点は、(1)引用発明の認定の当否、特に引用例1からP1タンパク質に特異的なモノクローナル抗体を用い患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出するラテラルフローデバイスを引用発明として抽出できるか、(2)相違点についての容易想到性の判断の当否、(3)本件特許発明の顕著な作用効果の認定の当否である。特に、引用例1がCARDSタンパク質とそのポリクローナル抗体に着目した発明を中心に開示しており、P1タンパク質に対するモノクローナル抗体によるサンドイッチ複合体形成型検出系の実施例を欠くにもかかわらず、本件取消決定がP1タンパク質に着目したモノクローナル抗体使用のラテラルフローデバイスを引用発明として認定した点が、主要な対立点となった。 【判旨】 知的財産高等裁判所第3部は、本件取消決定を取り消した。裁判所はまず、特許法29条1項3号にいう「刊行物に記載された発明」といえるためには、刊行物の記載及び出願時の技術常識に基づき当業者がその物を作れることが必要であるとの一般論を示した。 そのうえで、イムノクロマトグラフィー法における抗原検出には異なる二つの抗体によるサンドイッチ複合体形成が不可欠であり、モノクローナル抗体を用いる場合、抗体の組合せ次第で検出感度が大きく異なる以上、適切な組合せの選択が必要であるところ、引用例1にはP1タンパク質に対する具体的なモノクローナル抗体として「H136E7」が挙げられるのみで、これとサンドイッチ複合体を形成できる別のモノクローナル抗体の構造や入手方法についての手掛かりは示されておらず、本件出願時の技術常識を考慮しても、当業者が試行錯誤を経ずに引用発明のラテラルフローデバイスを作ることができたとはいえないと判断した。 また、引用例1の実施例のうち、ICTデバイスに関する唯一の実施例(実施例4)は抗CARDS抗体を用いたもので、P1タンパク質抗体を用いたものではなく、P1タンパク質抗体に関する実施例(実施例3)もサンドイッチ複合体形成とは異なる二次抗体法によるものであった。さらに、患者サンプルからの検出を扱う実施例7も、CARDSを検出抗原とする抗原捕捉EIAであってP1タンパク質のサンドイッチ複合体形成に基づく検出とは抗原も検出手法も異なり、感染・非感染とシグナルの増減の対応関係も明確でないため、臨床検体からの検出が可能であることを示すものとはいえないとした。 以上から、裁判所は、本件取消決定は引用発明の認定を誤った結果、第一・第二の抗体としてモノクローナル抗体を用いる点及び患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエの検出を行う点についての相違点を看過し、これらの相違点に関する容易想到性の判断を行わないまま進歩性欠如の結論を導いたもので、当該認定誤り及び相違点看過は結論に影響するとして、その余の取消事由について判断するまでもなく、本件取消決定を取り消すべきとした。本判決は、物の発明の進歩性判断における「刊行物に記載された発明」の認定にあたり、当業者が実施可能な具体的技術思想として抽出できるかを厳格に検討した事例として実務上の意義を有する。

※ この概要はAIが判決全文をもとに自動生成したものです。内容の正確性には十分注意していますが、誤りが含まれる可能性があります。正確な内容は原文をご確認ください。
判例データの一部は CaseLaw LOD(国立情報学研究所、CC BY 4.0)を利用しています。