不正競争行為差止等請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、中学受験のための大手学習塾「SAPIX(サピックス)」を運営する控訴人(株式会社日本入試センター)が、同じく中学受験向けの学習塾「受験ドクター」を運営する被控訴人に対して提起した不正競争行為差止等請求訴訟の控訴審である。 控訴人は、長年にわたり独自の教育思想・理念に基づき、多大な労力と費用をかけてテスト問題を作成し、最難関中学への合格実績を積み重ねてきた。これに対し被控訴人は、自社ウェブサイトやインターネット上で、控訴人学習塾の生徒を主な対象に、控訴人が作成したテスト問題の解説(いわゆるライブ解説)を配信し、また解説本を出版する事業を展開していた。 原審(東京地裁)において控訴人は、主位的に、被控訴人のホームページや動画に「SAPIX」「サピックス」の文字を含む表示を付する行為は不正競争防止法2条1項1号(周知表示の混同惹起行為)に該当するとして、使用差止めおよび損害賠償計6300万円を請求し、予備的に、控訴人作成のテスト問題を被控訴人が無断で使用する行為が一般不法行為(民法709条)を構成するとして4348万円の損害賠償を求めた。原審はいずれの請求も棄却した。控訴人は予備的請求部分のみを不服として控訴し、請求額を1500万円に減縮した。 【争点】 控訴審における中心的な争点は、被控訴人が控訴人作成のテスト問題を入手して解説本を出版し、またライブ解説を提供する行為が、一般不法行為を構成するか否かである。具体的には、(1)被控訴人の行為が自由競争の範囲を逸脱する不公正な行為といえるか、(2)被控訴人に控訴人の営業妨害・顧客奪取の主観的意図が認められるかが問題となった。 控訴人は、被控訴人の行為は控訴人のノウハウへのただ乗りであり、控訴人の教育方針に反する安易な受験テクニックに偏った解説により控訴人の信用が毀損されている、また被控訴人が運営する個別指導塾プリバートの競合として顧客を奪う意図があると主張した。 【判旨】 知的財産高等裁判所第3部は、控訴を棄却した。 裁判所はまず、最高裁平成23年12月8日判決(民集65巻9号3275頁、北朝鮮映画事件)を引用し、著作権法や不正競争防止法が規律対象とする利益とは異なる法的に保護された利益が侵害されたといえる特段の事情がある場合に限り、一般不法行為が成立するとの判断枠組みを示した。 その上で、大手学習塾が自ら作成したテスト問題の解説を提供する営業を独占する法的権利を有するわけではないから、大手学習塾に通う生徒や保護者の求めに応じて他の学習塾が業として補習を行うこと自体は自由競争の範囲内の行為であると判示した。被控訴人の解説が控訴人の事前審査を経ておらず、受験テクニックに偏った内容で控訴人の出題意図や教育方針に反するとしても、そのことから直ちに社会通念上自由競争の範囲を逸脱するとはいえないとした。 また、被控訴人が控訴人学習塾の生徒をターゲットに宣伝し、大規模校の周辺に校舎を展開していることなどの事情から被控訴人に控訴人の顧客を奪う意図があったと推認できるとの主張についても、それらの事情から控訴人の信用が害される根拠は不明であり、害意や営業妨害の態様を裏付ける証拠もないとして排斥した。 本判決は、他社が作成したテスト問題を材料とする「補習塾」ビジネスについて、著作権法・不正競争防止法が規律する利益以外に独自に保護すべき法的利益を認めず、自由競争の範囲内にあると位置づけたものであり、教育産業における競業の限界を画する先例として実務的意義を有する。