AI概要
【事案の概要】 本件は、「ASKA」の芸名で作詞作曲や歌手活動を行う原告が、自ら創作した未発表の楽曲をテレビ番組内で無断再生されたとして、芸能リポーターの被告Bと放送元の被告讀賣テレビ放送株式会社に対し、著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権)侵害を理由に、共同不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。 原告は、平成26年9月に覚せい剤取締法違反等の罪で執行猶予付き有罪判決を受けた後、音楽活動を続けており、平成27年9月頃に東京オリンピックのテーマ曲として応募する目的で演奏時間約6分の本件楽曲を創作した。原告は、当初、自叙伝の原稿について芸能リポーターである被告Bに感想を求めたことを契機に被告Bと知り合い、その後、自身の創作した楽曲を聴いた感想を聞くため、平成27年12月22日に本件楽曲の録音データをメールで送信した。 平成28年11月28日、警視庁が原告に対し覚せい剤使用の疑いで逮捕状を請求する予定であるとの情報が流れたことを受け、被告讀賣テレビの生放送番組「情報ライブミヤネ屋」は約62分間にわたり関連報道を行った。その中で、出演者であった被告Bは、原告から送信された本件録音データの一部約1分間を再生し、全国に放送された。原告は被告らに対し、楽曲使用料相当額、公表権侵害による慰謝料3000万円、弁護士費用等の合計約3307万円の支払を求めた。 【争点】 主な争点は、本件楽曲が未公表の著作物であったか、原告が被告Bに録音データを提供したことで公衆送信や公表につき黙示の許諾があったといえるか、被告らによる放送が著作権法41条の「時事の事件の報道のための利用」や同法32条1項の「引用」に当たるか、正当業務行為等により公表権侵害の違法性が阻却されるか、被告Bが侵害主体となるか、故意・過失の有無、損害額である。 【判旨】 東京地裁は、被告ら共同で公衆送信権及び公表権を侵害したとして、連帯して117万4000円及び遅延損害金の支払を命じた。 まず、著作権法にいう「公衆」は不特定多数又は特定多数の者をいうのであって、被告B個人が公衆に当たる余地はないから、原告が被告Bに録音データを提供したことをもって公表に当たるとは認められないとした。また、原告が被告Bに録音データを提供したのは、その感想を聞いて今後の作曲活動に反映させるためであり、芸能リポーターであることのみを理由に公衆送信・公表の黙示の許諾があったとは認められないとした。 次に、本件楽曲は、原告の逮捕方針という時事の事件の主題でも直接関連するものでもないから、著作権法41条の時事報道のための利用には当たらないとした。引用についても、本件楽曲は未公表の著作物であったから同法32条1項の引用には当たらないと判断した。正当業務行為の主張についても、本件番組では原告の音楽活動に係る具体的事実の紹介がなく、本件楽曲が覚せい剤使用の真偽判断の的確な材料とも認められないとして、前提を欠き違法性は阻却されないとした。被告Bについても、単なる履行補助者ではなく、被告讀賣テレビと共同して侵害行為を行った主体と認めた。 故意については、原告の同意がないとの認識を認めるに足りる証拠はないとして否定したが、放送事業者や芸能リポーターとして著作権侵害を避けるべき高度の注意義務を負っていたとして、少なくとも過失があったと認定した。損害については、日本音楽著作権協会の使用料規程に基づき1曲1回分の使用料6万4000円を認め、未発表曲を創作目的と相容れない文脈で公表され、公表機会を失わせた点を重視して慰謝料100万円、弁護士費用11万円を認定した。