損害賠償請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、美容ローラーに関する特許権侵害訴訟である。名称を「美肌ローラ」とする発明に係る特許権(特許第5230864号)を有する控訴人(株式会社MTG)が、被控訴人(ベノア・ジャパン株式会社)及びその補助参加人(株式会社ファイブスター)に対し、被控訴人らが販売する美容ローラー製品が本件特許の技術的範囲に属するとして、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。問題となった製品は、一対のローラーに太陽電池から微弱電流(マイクロカレント)を通電することで美肌効果を発揮するとされるもので、「ベノアプレミアム電子ローラー」「ベノアプレミアムローラージュエル」の名称で販売されていた。被告各製品は、本体部分が樹脂製でその表面に金属メッキが施されたローラーを備え、太陽電池により生成された電流がローラーに通電される構造であった。原審(大阪地裁)は控訴人の請求を棄却したため、控訴人が控訴した。被控訴人は、被告各製品の販売主体は補助参加人であり自らは実体のない会社であったと主張し、また本件特許には進歩性欠如の無効理由があると主張した。もっとも被控訴人自身が提起した無効審判請求は既に不成立の審決が確定していた。 【争点】 (1)被告各製品が本件特許発明の技術的範囲に属するか(ローラーの表面にメッキされた金属層が「導体によって形成された」に当たるか、製品が「美肌ローラ」に当たるか等)、(2)本件特許に進歩性欠如の無効理由があるか、及び無効審判が不成立で確定した後の侵害訴訟で同一事由の無効主張が許されるか、(3)被控訴人が補助参加人と共同不法行為責任を負うか、(4)損害額である。 【判旨】 知財高裁は、原判決を取り消し、控訴人の請求を2278万3473円の限度で認容した。技術的範囲の属否については、「導体によって形成された」とは、ローラー全体が導体である必要はなく、使用時に皮膚と接する表面に電力が供給されるよう一部分が導体で形成されていれば足りると解し、樹脂製部材の表面に金属メッキを施した被告製品のローラーもこれを充足すると判断した。「美肌ローラ」要件についても、被告各製品の取扱説明書の記載や構造から、毛穴を開き汚れを押し出す美肌効果を発揮するものと認定した。無効主張については、被控訴人が既に同一の主引例に基づく無効審判請求を行い不成立の審決を確定させた以上、同一事実・同一証拠に基づく無効理由の主張は特許法167条の趣旨及び訴訟上の信義則に反し許されないと判示した。被控訴人の責任については、被告各製品の取扱説明書に被控訴人が輸入販売元として表示されていたこと、商品名に「ベノア」の名称が付されていたこと、両社が同一人物の支配下にある密接な関係の会社であったこと等から、補助参加人との共同不法行為の成立を認めた。損害額は、特許法102条2項により販売利益を侵害者の得た利益と推定し、設計変更後の非通電品との流通比率を50%と見積もって算定した。 【補足意見】 本判決は、特許法167条の定める一事不再理効の趣旨が単に無効審判手続内部にとどまらず、侵害訴訟における無効の抗弁の主張可否にも及ぶことを明示した点に意義がある。無効審判で敗れた被告が侵害訴訟で同一の無効理由を蒸し返すことを訴訟上の信義則違反として遮断する枠組みは、いわゆるキルビー判決以降の特許法104条の3の運用において、紛争の一回的解決を図る重要な判示である。