手続却下処分取消請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、特許協力条約(PCT)に基づく国際特許出願をめぐる手続却下処分の取消訴訟の控訴審である。控訴人はスイス法人ジボダン エスエーであり、英語で国際特許出願(本件国際特許出願)を行った後、日本国に国内移行するため、特許庁長官に対し、特許法184条の5第1項所定の国内書面と、同法184条の4第1項所定の明細書・請求の範囲・図面・要約の日本語翻訳文を提出すべき立場にあった。 ところが控訴人は、優先日から30月以内の国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなかった。事情としては、控訴人側の代理人間で連絡用メールアドレスの誤送信が生じ、期限管理が正常に機能しなかったことがあった。控訴人は期間経過後に翻訳文等を提出したが、特許庁長官は、①期間内に翻訳文が提出できなかったことについて特許法184条の4第4項にいう「正当な理由」があるとは認められないとして翻訳文提出手続を却下し(本件却下処分1)、②これにより本件国際特許出願は取下擬制となったため、その後の手続補正書及び出願審査請求書に係る手続は客体のない出願に対する不適法な手続として却下した(本件却下処分2、3)。控訴人は各処分の取消しを求めたが、原審東京地裁は請求をすべて棄却し、控訴人が控訴した。 【争点】 争点は、①国内書面提出期間内に翻訳文の提出がなかった場合に出願を取下擬制する特許法184条の4第3項と、国内書面不提出の場合に補正命令を予定する同法184条の5第2項との規律の違いが、日本語特許出願と外国語特許出願との間に事実上の差別を生じさせ、パリ条約2条・TRIPS協定3条の内国民待遇原則に違反するか、②メール誤送信による期間徒過について、特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」が認められるかの二点である。 【判旨】 知財高裁は控訴を棄却した。まず争点①について、明細書等翻訳文提出手続と国内書面提出手続は別個の趣旨に基づく異なる手続であり、両者を比較して取扱いの不平等を論じる控訴人の主張は前提を誤るとした。加えて、特許法184条の4第1項・第3項は、PCT22条(1)及び24条(1)(ⅲ)に従い、翻訳文不提出の場合の効果を国内法に委ねる条約の枠組みに沿った規定であり、外国語出願を行えば内国民であっても翻訳文提出義務を負う以上、規定自体が内国民と外国国民とを別異に取り扱うものではないとして、条約違反の主張を退けた。 次に争点②について、平成23年改正で新設された特許法184条の4第4項の「正当な理由」は、PLT12条が認める「due care」(相当な注意)基準を採用したものと解されるところ、国際調和の要請があっても欧州特許庁と全く同一の基準によるべき必然性はないとした。そして、出願人(代理人を含む)が相当な注意を尽くしていたにもかかわらず客観的にみて期間内の翻訳文提出ができなかった場合をいうとの解釈を正当としたうえで、本件では、連絡に用いてはならないプライベートアドレスの存在を認識しながら補助者への管理監督を怠っており、誤送信防止のための相当な注意を尽くしていたとは認め難いと判示した。 本判決は、PCT国内移行手続における期間徒過救済規定の解釈について、条約適合性と「正当な注意」の基準を明確化したものであり、知財実務における期限管理責任の重要性を示す先例として位置づけられる。