AI概要
【事案の概要】 棋士である原告が、公益社団法人である被告(日本将棋連盟)の臨時対局規定に基づくマスク着用義務に関し、鼻を露出した態様でのマスク着用(鼻マスク)で対局に臨んだところ、被告から3度にわたり反則負け処分を受け、さらに令和5年2月13日から3か月間の対局停止の懲戒処分を受けた。原告は、臨時対局規定の解釈を誤った違法な処分であるとして、主位的に不法行為に基づく損害賠償379万円(未払対局料26万8000円、参稼報償金減少分19万2000円、慰謝料300万円、弁護士費用33万円)の支払を求め、予備的に懲戒処分の無効を前提とする未払対局料の支払及び降級点を持たずにC級1組に在籍する地位の確認を求めた。 【争点】 ①主位的請求が司法審査の対象となるか、②臨時対局規定1条の「マスクを着用しなければならない」との定めが鼻まで覆う態様を要求するものと解釈できるか、③各反則負け処分及び懲戒処分が裁量の逸脱濫用として不法行為を構成するか、④予備的請求の成否。 【判旨】 請求棄却(地位確認の訴えは却下)。裁判所は、まず棋士の報償金等が生活基盤であり懲戒処分が一般市民法秩序に関わるとして司法審査の対象となると判断した。本件規定1条の解釈については、政府が鼻まで覆う態様でのマスク着用を推奨していた当時の状況下で、専門的知見を有しない被告がこれに従った解釈をすることは不合理でないとした。原告は立会人から複数回の事前注意と反則負けの予告を受けており不意打ちではなく、原告への狙い撃ちの事実も認められないとした。また、対局の性質上、対局者双方に同一ルールを課すべきであり、健康上の理由による例外規定も存在することから、一律適用も不合理ではないと判断した。懲戒処分についても、4回の対局で予告にもかかわらず鼻マスクを是正しなかったことを実質的な対局放棄と評価することに不合理はなく、倫理委員会の答申を経た手続にも不備はなく、3か月の対局停止も過酷とはいえないとして、裁量の範囲内と判断した。地位確認請求については、降級点の有無は他の棋士との成績対比や対局の勝敗評価を要し、司法判断の対象とならないとして訴えを却下した。