審決取消請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、原告(サノフィ株式会社)が、被告(アストラゼネカ・アクチボラグ)の有するフルベストラント製剤に関する特許(特許第3713237号)について無効審判を請求したところ、特許庁が請求項18ないし34に係る部分について無効審判請求は成り立たないとの審決をしたため、原告がその取消しを求めた審決取消訴訟である。本件特許は、乳がん治療薬であるフルベストラントを含有し、筋肉内注射によりヒトに投与するための徐放性医薬製剤に関するものであり、ヒマシ油中にアルコール類及び安息香酸ベンジルを配合した組成を特徴とする。原告は、新規性欠如(甲1文献)、進歩性欠如(甲1文献及び甲4文献に基づく)、実施可能要件違反、サポート要件違反の5つの取消事由を主張した。 【争点】 主な争点は、(1)甲1文献(マウスを用いた基礎研究論文)に記載された試験用組成物と本件各訂正発明との間の相違点1(ヒトへの筋肉内注射用医薬製剤か、マウスへの皮下投与用試験用組成物か)が実質的な相違点か否か、(2)甲1発明から本件各訂正発明への進歩性の有無(フルベストラントの筋肉内注射に関する技術常識、マウスへの皮下注射とヒトへの筋肉内注射の関係、沈殿の不発生・許容に関する技術常識の存否を含む)、(3)甲4発明(ヒトへの筋肉内注射用製剤)から溶剤の組成を容易に想到できたか否か、(4)実施可能要件及びサポート要件の充足性である。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原告の請求を棄却した。取消事由1(新規性)について、甲1はタモキシフェン抵抗性の機序としてFGFオートクリン活性を検証するための基礎研究であり、フルベストラントをヒトに対する治療用の医薬組成物として開示したものではないから、相違点1は実質的な相違点であると判断した。取消事由2(甲1に基づく進歩性)について、甲1ではフルベストラントは実験における補助剤としてマウスに使用され、投与しても腫瘍の増殖が抑えられなかったものであること、本件明細書等には予想外の知見がある旨記載されていること等を総合し、甲1の組成物をそのままヒトの医薬用途に転用し筋肉内注射に用いる動機付けは認められないとした。原告主張の技術常識(フルベストラントの筋肉内注射、マウスへの皮下注射、沈殿の不発生・忍容性、沈殿の許容)についても、いずれも存在を認めなかった。取消事由3(甲4に基づく進歩性)について、甲4発明に対し多数の添加物の中からエタノール、ベンジルアルコール及び安息香酸ベンジルを選択しその含有量を特定することは容易に想到できないとした。取消事由4及び5(実施可能要件・サポート要件)について、本件明細書等の製剤F1の記載に基づき、当業者が過度の試行錯誤なく本件各訂正発明を実施でき、課題を解決できると認識できる範囲のものであるとして、いずれの要件違反も否定した。