著作権侵害差止請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、一審原告が、一審被告を編著者とする書籍(被告書籍)の発行により、一審原告が他の者と共同で作成した未公表の学術論文の草稿に掲載された表(原告表)に係る共有著作権(複製権又は翻案権)が侵害されたと主張し、著作権法112条1項に基づき被告書籍の発行等の差止めを求めた事案である。原告表は、看護教育における実地指導者のコンピテンシーと行動記述を整理した表であり、一審原告ら共同著作者が作成した論文草稿に掲載されていた。この論文草稿をもとに作成された甲5論文は日本教育工学会論文誌に採録・掲載された。原審(大阪地裁)は一審原告の請求を全部認容したため、一審被告が控訴した。 【争点】 主な争点は、(1)原告表の著作物性、(2)一審被告による依拠の有無、(3)差止請求における過失の要否、(4)一審原告が原告表の共有著作権を喪失したか、(5)引用(著作権法32条1項)としての適法性であった。控訴審は争点(4)から判断した。 【判旨】 控訴審は原判決を取り消し、一審原告の請求を棄却した。裁判所は、日本教育工学会の投稿規定に「採録決定された論文の著作権は本学会に帰属する」旨の規定があり、会員である共同著作者がした投稿はこの内部規範に従ってされたものと解されるとした。そして、甲5論文が採録決定されたことにより、甲5論文の著作権は同学会に移転したと認定した。原告表と甲5表を比較すると、相違点は「対象者」を「学習者」に改めるなどの軽微なものにとどまり、表現が実質的に同一であって、甲5表は原告表の複製物にすぎないと判断した。したがって、原告表の著作権も甲5論文の著作権と一体のものとして同学会に移転し、一審原告はその著作権を喪失したと結論づけた。一審原告が承諾書や著作権譲渡契約書を提出していないとの反論に対しては、投稿規定上、採録決定の段階で著作権は移転するのであり、承諾書等は権利帰属を明確にするために念のため提出を求められるものにすぎないとして排斥した。