AI概要
【事案の概要】 被告人(当時64歳)が、令和6年1月23日早朝、自宅において知人の被害者(当時69歳)を刺身包丁(刃体の長さ約19.3cm)で胸部及び背部を3回突き刺し、出血性ショックにより死亡させた殺人の事案である。被告人と被害者はかつて先輩・舎弟の関係にあったが、次第に疎遠になっていた。犯行前日夜、被害者は仲間と共に被告人宅を訪れ、包丁を突き付けて脅迫するなどしていた。犯行当日早朝にも被害者らが再び被告人宅を訪れ、被害者が万能包丁を被告人の胸に突き付けて馬乗りになったが、被告人がこれを押し返して体勢を逆転させ、万能包丁の刃を折って奪い取った。その後、被告人は別の刺身包丁を持ってこさせ、一旦は被害者を制圧したものの、向かい合って座った際に被害者が中腰になる動きをしたことを契機に、3回の刺突行為に及んだ。 【争点】 第一の争点は殺意の有無である。弁護人は被告人に殺意がなかったと主張した。第二の争点は正当防衛・過剰防衛又は誤想防衛・誤想過剰防衛の成否である。弁護人は、被害者から包丁で脅迫・攻撃を受けていた状況下での防衛行為であると主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、殺意について、刺身包丁の高い殺傷能力を被告人が認識していたこと、創傷がいずれも身体の枢要部に集中し深部に及んでいること、短時間に連続的に3回刺突していること等から、被告人はAが死亡する危険性が非常に高い行為であると認識しながら刺突行為を行ったとして、殺意を認定した。正当防衛等については、被告人が被害者の体を押し倒して馬乗りになり万能包丁の刃を奪い取った時点で急迫不正の侵害は終了していたと判断した。その後の刺突行為についても、被告人が利き手に滑り止め付き軍手を装着していたこと、刺身包丁を手元に不用意に置いて被害者の攻撃を自招した側面が強いこと、Dに指示して通報や退去させるなど攻撃回避の方策を講じることが十分可能であったこと等から、急迫性の要件を満たさず、正当防衛・過剰防衛・誤想防衛・誤想過剰防衛のいずれも成立しないとした。量刑については、殺傷能力の高い包丁で胸部・背部を3回刺突した行為態様が非常に悪質で結果も極めて重大である一方、被害者にもかなりの落ち度があること、自首が成立すること、被告人が犯行を大筋で認め反省の態度を示していること等を考慮し、求刑懲役13年に対し、懲役11年を言い渡した。