損害賠償請求控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 令和5(ネ)619
- 事件名
- 損害賠償請求控訴事件
- 裁判所
- 大阪高等裁判所
- 裁判年月日
- 2025年1月20日
- 裁判官
- 住山真一郎
- 原審裁判所
- 大阪地方裁判所
- 原審事件番号
- 令和2(ワ)494
AI概要
【事案の概要】 被控訴人会社の従業員が業務中に運転していた小型特殊自動車が、歩行中の児童A(当時11歳)に衝突し、Aが死亡した交通事故について、Aの両親及び兄が、運転者に対しては民法709条、会社に対しては民法715条に基づき損害賠償を求めた事案の控訴審である。Aは先天性の両側感音難聴(身体障害者等級3級)を有しており、逸失利益算定の基礎収入をどのように認定するかが最大の争点であった。原審は全労働者平均賃金の85%を基礎収入としたが、控訴人らはこれを不服として控訴した。 【争点】 先天性の聴覚障害を有していた児童の逸失利益の算定において、基礎収入を全労働者平均賃金から減額すべきか否か。具体的には、Aの聴覚障害が将来の労働能力を制限する程度、障害者法制の整備やテクノロジーの進歩による就労環境の変化、聴覚障害者の実際の就労実態等を踏まえ、基礎収入の減額の当否が争われた。 【判旨】 当裁判所は、原審の判断を変更し、Aの基礎収入について全労働者平均賃金(497万2000円)の100%を認めるのが相当と判断した。その理由として、第一に、Aの聴覚障害は末梢系(感音系)のみであり中枢系には障害がなく、補聴器装用により通常の会話音声は聴取可能であったこと、年齢相応の言語知識・学力・高いコミュニケーション能力を備えていたことから、就労可能年齢に達した時点で基礎収入を当然に減額すべき程度の労働能力の制限があるとはいえないとした。第二に、障害者権利条約の批准を契機とした「社会モデル」の考え方に基づく障害者基本法・障害者差別解消法・障害者雇用促進法の整備により、事業主に合理的配慮の提供が法的に義務付けられたこと、AI搭載補聴器や音声認識アプリ等のテクノロジーの飛躍的進歩により聴覚障害者の就労環境が著しく改善していることを認定した。第三に、様々な職場で重度の聴覚障害者が合理的配慮の提供を受けて健聴者と同じ条件で働き、昇進・昇給も実現している具体的事例を詳細に認定した。以上から、Aは一般就労が十分可能であり、全労働者平均賃金を基礎収入として認めることに顕著な妨げとなる事由はないと結論づけた。控訴人B及びCの請求については原判決を一部変更して増額し、控訴人Dの控訴は棄却した。