AI概要
【事案の概要】 被告人(男性、身長約177cm・体重約89kg)は、配偶者のいる高校教員であり、同じく配偶者のいる被害者(女性、当時47歳、身長約159cm・体重約43kg)と不貞関係にあった。被告人は令和元年頃から別れ話を切り出していたが、被害者は応じず、被告人の携帯電話に1日666回電話をかけるなどの執拗な連絡、合計700万円の金銭要求、被告人の妻子への危害を示唆する脅迫的発言を繰り返した。被告人は帯広市への異動を機に関係を断とうとし、虚偽の住所や偽造した離婚済みの戸籍を被害者に示したが、令和4年5月29日に帯広を訪れた被害者に自宅を突き止められ、離婚していないことが発覚した。翌30日未明、被害者の車内で被告人が「もう死ぬしかない」と言ったところ被害者が二度うなずいたため、後部座席でシートベルトを互いの首に巻き付けて首を絞め合う形で被害者を殺害し、同日中にその遺体を雑木林に埋めて遺棄した。 【争点】 本件は差戻審であり、主な争点は、被害者の殺害に対する承諾が真意に基づくものか否か、すなわち承諾殺人罪(刑法202条)と殺人罪(刑法199条)のいずれが成立するかであった。弁護人は、被害者が被告人に殺害されることを承諾しており承諾殺人罪にとどまると主張した。検察官は、被害者の承諾は被告人も一緒に死ぬことを前提としたものであり、被告人に死ぬ意思がなかった以上、承諾は錯誤に基づく無効なものであるとして殺人罪の成立を主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、被害者が被告人に強く執着しており、被告人のみが生き残って家族との生活を続ける事態を許容するとは考え難いこと、被害者自身が被告人の首のシートベルトを引いており被告人も死ぬと考えていたことから、被害者の承諾は被告人と一緒に死ぬことを前提としていたと認定した。一方、被告人については、被害者さえいなければ充実した生活を送れる状況にあり共に死ぬ動機がないこと、体格差やゴム手袋の装着等から被告人のみが生き残る可能性が極めて高いことを容易に認識できたこと、被害者に首を絞められている状態で何もしなければ死ねたのにあえて被害者の首を絞めたことなどから、被告人には死ぬ意思がなかったと認定した。以上から、被害者の承諾には錯誤があり真意に基づくものではなく、被告人もそのことを認識していたとして、殺人罪の成立を認めた。量刑については、犯行は突発的で計画性はないものの、約10分間にわたり首を絞め続けた殺意は強固であること、被害者が被告人も共に死ぬと誤信していた状況を利用したこと、遺体を埋めて遺棄した点も軽視できないとした。他方、被害者による執拗な迷惑行為が犯行の決意に一定の影響を与えたことは酌むべき事情とした。被告人を懲役12年に処した(求刑懲役13年)。