AI概要
【事案の概要】 被告人は、かねてより人の首を絞めて殺したいという性的嗜好を有していたところ、本業の勤務先社長から虐待・搾取を受ける状況に耐えられなくなり、刑務所に行くためにその嗜好を実行しようと考えた。令和5年8月12日、兼業のアルバイト先において、社長の出勤を遅らせて一人で勤務する時間帯を作り、顔見知りの常連客である被害者(当時45歳)を人目につかない休憩室に招き入れ、確定的な殺意をもって被害者の頸部を両手で絞めつけた。被害者が意識を消失したのを見て死亡したと思い込み手を離したが、間もなく被害者が意識を取り戻した。被告人は再度首を絞めることが可能であったにもかかわらず、すでに満足感を得たためこれを行わず、殺害を中止した。被害者は約7日間の加療を要する圧挫痕の傷害を負い、被告人は直後に110番通報して自首した。 【争点】 被告人の責任能力の有無・程度が争点となった。検察官は完全責任能力を主張し、弁護人は心神喪失を主張した。裁判所は、被告人が犯行の2か月前から犯行計画を具体化させ、対象者の選定、犯行場所・時間帯の設定など周囲の状況に応じて自己の行動を制御していたことから、犯行が衝動的なものとは評価できないとした。弁護側鑑定医が指摘した発達障害の影響についても、少なくとも本件犯行が衝動的であるとの評価には賛同できないとし、完全責任能力を認めた。 【判旨(量刑)】 裁判所は、巧妙で悪質性の高い犯行態様、被害者が受けた恐怖や日常生活への悪影響の大きさを指摘した。実行行為自体の危険性が低く傷害結果も軽かった点は被害者が早期に意識消失した偶然の結果にすぎないとした。勤務先社長からの虐待・搾取には同情の余地があり、中止未遂と自首の成立は被告人に有利に考慮すべきとしつつも、責任能力に問題のない被告人が自らの性的嗜好を満たすため無関係の被害者を巻き添えにした意思決定は短絡的かつ身勝手であるとした。凶器を用いない殺人未遂で傷害が軽微な事案の量刑傾向の中程度に位置づけ、執行猶予が選択される事案とは犯情が異なるとして実刑が相当と判断し、懲役4年6月を言い渡した(求刑懲役6年)。