AI概要
【事案の概要】 本件は、「多角形断面線材用ダイス」に関する特許(特許第6031654号)について、特許無効審判における訂正請求を認めた上で無効審判請求を不成立とした審決に対し、原告(中国金網工業株式会社)がその取消しを求めた訴訟である。被告(株式会社ノブハラ)は、引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部が略多角形の断面形状を有する発明について特許を保有していた。本件では、被告が無効審判の中で行った訂正請求(訂正事項1等)において、略多角形の角を「少なくとも半径0.8mmの曲率の円弧」で置き換えるとするC-2事項を追加したことが、新規事項の追加に当たり訂正要件に違反するか否かが主要な争点となった。 【争点】 訂正事項1等(C-2事項の追加)が、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正といえるか(特許法134条の2第9項、126条5項)。具体的には、明細書に「1辺が4mmの四角形断面の棒材を作成する場合」に「半径0.8mm程度の曲率の円弧」で角を結ぶという一つの実施例しか記載されていないにもかかわらず、多角形の形状や1辺の長さを問わず曲率半径の下限値を0.8mmとする訂正が、新たな技術的事項を導入するものか否かが争われた。 【判旨】 知財高裁は、原告の請求を認容し、審決を取り消した。裁判所は、明細書には引抜加工用ダイスの角を円弧に置き換えることで潤滑剤の塊ができにくくなるという技術思想は開示されているものの、実施例は1辺4mmの四角形断面で曲率半径0.8mm程度の内接円の円弧を用いる一例のみであり、効果の発生機序や原理についての一般的な説明も、数値の技術的意義に関する記載もないと認定した。その上で、曲率半径が大きいほど円断面に近づくとの被告の主張についても、円弧の中心位置によっては辺を横切る場合があり新たな角が形成され得ること、潤滑剤の溜まりやすさは曲率半径のみならず断面形状・潤滑剤の種類・加工発熱等の種々の要因に左右されることを指摘し、多角形の形状や1辺の長さを限定せずに曲率半径の下限を0.8mmとするC-2事項は、明細書に記載された実施例の範囲を超える新たな技術的事項を導入するものであると判断した。