損害賠償請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 静岡県警察所属のA警部補(当時31歳)が平成24年3月10日に自殺したことについて、A警部補の妻子である原告らが、静岡県(被告)に対し、自殺は被告の安全配慮義務違反によるものであるとして、A警部補の損害賠償請求権を相続したと主張し、その支払を求めた事案である。A警部補は下田警察署中央交番の交番長として交替制勤務に従事していたが、連続窃盗事件の自主的な見回り、職場実習指導員の業務、海外研修の準備作業、異動に伴う引継作業が重なり、自殺直前1か月間の時間外勤務は117時間45分に達していた。また、14日間の連続勤務を1日の休みを挟んで2回繰り返し、ストレス診断では最低評価のE(かなり悪い)であったが、上司による対応はなされなかった。 【争点】 A警部補の自殺と業務との間に相当因果関係が認められるか、また、上司らにおいてA警部補が業務により心身の健康を損なって自殺に至ることを予見できたかが争われた。被告は、因果関係も予見可能性も認められないとして原審判断の法令違反・判例違反を主張した。 【判旨】 最高裁は上告を棄却し、被告の安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を認めた原審判断を是認した。まず、都道府県は所属警察官に対し、業務に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないよう注意する安全配慮義務を負うと判示した。因果関係については、自殺直前1か月間の時間外勤務が前月の約56時間から117時間超へ倍増し、交番長業務に加え複数の業務が重なったこと、14日間連続勤務を2回行い各当直明けの非番日にも平均6時間超の勤務をしていたことから、精神疾患の発症をもたらし得る過重な業務であったと認定した。予見可能性については、上司らはA警部補の業務状況を勤務日誌や時間外勤務実績報告書を通じて把握し得る立場にあり、ストレス診断の最低評価も地域課長は認識していたことから、負担軽減措置を講じなければ精神疾患を発症して自殺に至る可能性を認識できたと判断した。裁判官全員一致の意見。 【補足意見】 三浦守裁判官は、地方公務員の業務に関する安全配慮義務違反の判断に当たり、公務災害の認定基準や労災認定基準に示された知見を経験則上の一つの知見としてしん酌し得ると述べた。ただし、これらの基準は無過失の危険責任に基づく制度に係るものであり、損害賠償責任とは趣旨を異にするため、形式的に当てはめるべきではなく、関係する諸事情を総合的に考慮して負荷の程度を評価すべきであるとした。