AI概要
【事案の概要】 本件は、医師である被告人が医師仲間のAと共謀の上、(1)海外での安楽死を望む難病患者の依頼を受け、国立大学病院の医師・医学博士作成名義のメディカルレポート2通を偽造した有印公文書偽造と、(2)ALS患者の嘱託を受け、同人を殺害した嘱託殺人の2件からなる事案である。原審は被告人を懲役2年6月の実刑に処したところ、被告人側が事実誤認及び量刑不当を主張して控訴した。 【争点】 第一の争点は、有印公文書偽造における公文書性と被告人の正犯性である。弁護人は、メディカルレポートのヘッダーに病院名があるだけで署名に肩書がなく公文書とはいえないこと、被告人は署名をしただけで計画立案や文書内容の作成に関与しておらず幇助にとどまると主張した。第二の争点は、嘱託殺人における共謀の成否である。弁護人は、Aと被告人との間のメールに具体的な殺害計画のやり取りがないこと、被告人が犯行直前に京都市内にいることが分かる写真をSNSに投稿するなど犯行を隠す行動をとっていないこと等から、被告人はAから殺害計画を知らされておらず共謀は成立しないと主張した。さらに控訴審では、Aが自身の裁判の被告人質問で事前共謀を否定する供述をしたとして、A の証人尋問の実施を求めた。 【判旨(量刑)】 控訴棄却。有印公文書偽造について、控訴審は、一般人は国立大学附属病院の英語表記や英文公文書の形式に精通しておらず、本件各文書の外観は公務員たる医師が職務上作成した文書と信じるに足りるものであるとした原判決の判断に誤りはないとした。また、作成者名義を偽ることが偽造の本質であり、虚偽の署名を行った被告人は実行行為の中核部分を担ったとして、共同正犯の成立を認めた。嘱託殺人について、控訴審はAの証人尋問を実施した上で、Aが被告人に明示的に殺害計画を伝えてはいなかったものの、被告人は被害者のブログ等から同人が死を切望していることを知り得たこと、同行を求められた際に被告人自らパソコンへの細工や防犯カメラの確認に言及したこと、被害者方で偽名を名乗ったこと等を総合し、被告人はAの殺害計画を暗黙裡に察知して協力したものと認定した。明示の謀議ではなく黙示の共謀が成立したと判断し、共謀共同正犯としての責任を肯定した。量刑についても、医師としての知識と立場を悪用し、対価を受け取って初対面の患者を短時間で殺害するという人命を軽んじた犯行態様に照らし、実刑が重すぎるとはいえないとして、原判決の懲役2年6月を維持した。