過失運転致死
判決データ
AI概要
【事案の概要】 平成31年3月、北海道苫小牧市の市道において、被告人が普通乗用自動車を運転中、右方から左方へ横断歩行中の被害者(当時75歳)に自車前部を衝突させ、頸髄損傷により死亡させたとして、過失運転致死罪に問われた事案である。原審(第一審)は有罪としたが、被告人が控訴した。 【争点】 主な争点は、(1)衝突時の被告人車両の走行速度、(2)衝突地点の特定、(3)被害者の自殺企図の有無、(4)結果回避可能性の有無であった。原審は、鑑定人Eの意見に依拠し、衝突地点を被害者転倒地点から約25メートル手前のB地点と認定し、前照灯下向きでも衝突地点の約35メートル手前で人を視認可能であったとして、停止距離(約20.77~33.89メートル)との比較から結果回避可能性を認めた。これに対し弁護人は、衝突地点はA地点(被害者転倒地点の約12.1メートル手前)であり、結果回避可能性はないと主張した。 【判旨(量刑)】 札幌高裁は原判決を破棄し、被告人に無罪を言い渡した。まず、E鑑定が衝突時速度を時速60~65キロメートルとした根拠(フロントガラス損傷と速度の相関関係)は、論文発表もされていない個人的実験の積み重ねにすぎず、ボンネットの短い車両への適用に疑義があるとして信用性を否定した。次に、衝突地点について、E鑑定に基づくB地点認定は、被害者の帽子等が衝突地点付近に散乱していた事実と矛盾し、検察官・弁護人双方がB地点認定の不合理性を一致して主張したことも踏まえ、衝突地点はA地点と認定した。その上で、A地点を前提とした視認可能距離(23メートル)と停止距離(20.77メートル)の差はわずか2.23メートル(時速45キロメートルで約0.17秒)にすぎず、被告人が当時57歳であったことや夜間に突然被害者が現れた状況を考慮すると、反応時間が0.25秒長くなるだけで結果回避可能性に合理的疑いが生じること、また走行速度が時速50キロメートル程度であった可能性も排斥できないことから、結果回避可能性を合理的疑いなく認定することはできないと判断し、過失運転致死の犯罪事実は証明されていないとした。