AI概要
【事案の概要】 自動車部品メーカーに勤務していた従業員Kが、業務に起因してうつ病エピソードを発病し自死したとして、その妻である原告が、豊田労働基準監督署長に対し労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ、業務上の疾病とは認められないとして不支給処分を受けたため、その取消しを求めた事案である。Kは平成29年10月の担当業務見直しにより、従来経験のなかった生産ラインの業務や九州への宿泊付き出張業務を複数担当することとなり、同年12月18日に自宅で縊頸により自死した。 【争点】 主な争点は、(1)Kの精神障害の発病時期、(2)精神障害の悪化の有無、(3)精神障害の発病及び死亡の業務起因性である。原告は、業務による強い心理的負荷が精神障害の発病・悪化の原因であると主張した。被告(国)は、Kの時間外労働時間数は発病前1か月で67時間程度にとどまり、仕事内容にも大きな変化はなかったとして、心理的負荷の強度は「中」であり業務起因性は認められないと主張した。 【判旨】 裁判所は、原告の請求をいずれも認容し、不支給処分を取り消した。まず発病時期について、遺書の記載や家族の証言等から、Kは11月頃にうつ病エピソードを発病したと認定した。次に業務起因性について、裁判所は、会社の時間外労働時間の上限規制(月45時間又は55時間)を免れるため、Kを含むチーム従業員が退門記録を残さない等の方法で労働時間を過少申告していた事実を認定した。その上で、入門時刻の10分後を始業時刻、退門時刻の10分前を終業時刻とするなど実態に即した労働時間の算定を行い、発病前1か月の時間外労働時間数を85時間32分と認定した。さらに、担当業務見直し後のKの業務内容について、従来経験のなかった生産ラインの担当となったこと、部品数が多く納期が短かったこと、特殊形状の製品で会社初の技術を用いる困難な業務であったこと、新規のBCP推進業務も加わったこと、宿泊付き出張が重なり連日勤務を余儀なくされたことを総合的に考慮し、仕事内容・仕事量の変化に係る心理的負荷の強度は「強」であると判断した。